第20話 牛若丸大作戦

 目の端に浮かぶ涙を手の甲で強引に拭って、おれは若林と対峙する。


「それで、なんなんですか? 牛若丸大作戦って」

「うっふふーん。合体するのよ、合体!!」


 やっぱり聞かない方がよかった。


「ちょっと、牛丸ちゃん、早合点だってば!! 合体と言っても、いやらしい意味じゃなくて、あなたがあたしを肩車してくれればいいんだから」


 世の中まともな上司って、本当に少ないよな。


「ちょ、やめて。そんな冷たい目であたしを見ないでっ」

「じゃあ言いますけど。若林さんって、案外骨格しっかりしてますよねぇ?」

「あはっ。それは言いっこなしよん」

「あなたを肩車した状態で、パチンコやメンコを投げられると思いますぅ?」


 若林を落とさないためには、両手で支えなければならない。だったら単に、おれがおとりになるだけのこと。おとりかっ!! それが目的かっ!?


「あんたまた、おれのことをおとりにしようとしてっ!!」

「あっはーん。バレちゃった」


 ひどい上司だ。


「でも、あなたが悪いのよ、牛丸ちゃん。ぼーっとしちゃっていたから、どうしたってからかいたくなっちゃった」


 そうか、でも若林なりにおれのことを考えてくれていた――?


「でもまさか、すぐにおとりにされることを気付かれるなんて思わなかったわぁー。気をつけようっと」

「やっぱり最低だな、あんた」


 こうして、次の満月の夜まで、ああでもない、こうでもないと対策を練っていたのだった。


 つづく


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