第16話 澄子との飲み会
予定通り、澄子との飲み会。占いの仕事を休んでまでおれに飲ませたい酒があるらしい。
「かなりめずらしいお酒が手に入ったのよ。でも、アルコール度数すっごく高いけど大丈夫かしら?」
なんだか澄子に馬鹿にされているような気になって、思わず大丈夫だとタンカをきってしまった。
「それに伴い、お料理も発注してあるのよ。もう少し飲んだら届くから」
「自分で作らないのかよ」
別に、女性差別をしているわけじゃないけれど、酒に誘ったのならば料理も用意してあるのかと思っていた。そんなわけで、昼間っから酔っ払いが二人出来上がる。
酒はどこの国のものだか字も読めなかったが、本当に口当たりが良くて、うまかった。で、ついグビグビ飲んじまう。料理が間に合わないなと思った頃、ようやく自転車で配達に来た。
「料理をお持ちしました」
あれ? 正美? そんなわけない。だって体にぴったりフィットした制服は男の体のそれであり、正美なわけないじゃないか。でも、もし正美が本当に黒装束の一人なのだとしたら? 肉体強化されることによって、男性ホルモンの数値が関係しているのだとしたら?
やべ。澄子なんかと一緒に酒を飲むべきじゃなかった。
頭が、くらくらしている。
「あたし、スーパーヒーローになれたよ。――ばいばい、和彦。愛してくれて、ありがとう」
正美!! ぐったりした体で伸ばした手はすぐに澄子に捕まえられてしまう。
「お別れは済んだかしら? じゃあ、いい? あなたは牛丸 和彦。これまで女性経験はなく、正美という女性に知り合いはいなかった。いい?」
なに? 澄子はなにを言っているんだ? ダメだ。脳が澄子に支配されてゆく。
「そうね、せっかくだから、牛ちゃんはあたしに片思いをしているって設定でどうかしら? いい? 正美なんて女性は、あなたの人生のどこにもいなかった」
「まさ、み?」
「そう、正美なんて女性は知らない。あなたは、あたしのものよ」
頭の中がぐるぐる回る。正美が、誰だって? おかしいな。目の前の男の顔を見知っていたはずなのに? 誰、だ?
「そう。お酒は正しく飲まなくちゃね。おやすみ、牛ちゃん」
赤ん坊に諭すような澄子の言葉が、おれの脳内を支配してゆく。
おれは、おれは――。
つづく
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