第15話 専門医
都内からだいぶ離れた場所に、その病院はあった。一見するとツタがすごすぎて、とても経営しているとは思えない作りの個人病院だった。
「牛丸ちゃん、保険証と警察手帳出して」
「はぁ?」
保険証はともかく、警察手帳だって? 持ってるけど、なんで?
「治療費は警察に出してもらうのよ。あったり前じゃない」
「わかりました」
古い蛍光灯がわずかなあかりをともす廊下は、人影もなく、忘れ去られたように隅っこに絵本や昔の漫画が飛び飛びで置かれていた。
「牛丸さん、どうぞ」
ほどなくして、予想に反して若くてきれいな看護師さんに名前を呼ばれて診察室へ入って行く。そこには更に、若くてきりりとした男の先生が白衣を着てパソコンをいじっていた。
「牛丸 和彦さんですね。アレに肩を溶かされたと。見せてもらえますか?」
医師はおれに肩を出すよう指示した。こんな古めかしい病院でも電子カルテなんだな、なんてぼんやり考えていたおれは、若林に手伝ってもらってようやく肩を見せることができた。
「なるほど? 若様が処置してくださったのですね」
若様っ!? まさかの若様呼びに戸惑うおれへ、若林がいやーんと肩を叩く。だから痛いんだって。
医師はガーゼを慎重にはがすと、露出されたおれの傷跡を見て、ああ、これならすぐ治りますよと笑いかける。
「少し、動かないでくださいね?」
言うが早いか、医師はおれの肩に手のひらを向けた。なにか、あたたかい感触に包まれると、それまで痛かった肩の傷がすっかり治っていた。
「以上で治療を終了します。またなにかありましたら、おいでください」
「ありがとうございました。ほら、牛丸ちゃん、帰りましょう」
「え? ああ、ありがとうございました」
なんだかわからないまま、廊下に放り出される。着崩れていたスーツを直しながら、会計待ちをすることになった。
「先生はね、特別な気功師なのよ。だから、こんな傷簡単に治してくれるわ。よかったわね」
だったらあの医者も怪異なるものの殲滅隊に加えればいいのに、とはなじろむも、さすがにそれは医師法でダメなのよねと釘を刺されてしまう。
「……さん、中へどうぞ」
さっきの看護師が声を潜めて言ったので、なんとなくそっちを見やる。
正美?
でも、顔は少し似ているけれど、髪も短くツーブロックだし、体つきも男だ。
「牛丸ちゃん、今はがまんなさいね」
そうしてあらたな疑問を抱えたまま、病院を後にするのだった。
つづく
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