第14話 報告会
「まったく。もう少し緊張感を持ってちょうだい? あたしたちがしていることは、他の部署の連中に聞かれたら、すーぐ首切られるレベルなんだから」
「なんでです?」
「そういうのは民間業者に委託しろってすぐ言うのよ。特に、上の連中はね」
そうか。ここで無職になるのは色々な意味で痛いな。これからは気をつけよう。
「だけど、なんでおれ、今までアレが見えなかったんだろう?」
「雲かな?」
「曇りでしたね」
そうだったんだ。
「ちなみにアレは、港の上から上陸することはめったいないんっすよ。なんだか水蒸気を利用しているらしくって」
おおー。知らないことがどんどん明るみになって行く。
「あれ? でも、じゃあ若林さんは、曇っていてアレが出ないとわかった上で、おれを港に向かわせてたんですか?」
「ごめーん。牛丸ちゃんがうちに配属された時には、まだ色々と解明されてなかったのよ。だから、牛丸ちゃんが見えるかどうかを試したっていうか。そんな感じ」
なんだよ。結局利用されたってわけか。
「そういや、アレは話がどうたらって言ってたけど、なに?」
「ああ、ただね、話を聞いてほしいだけなんっすよ。でも怪異になってしまうと、しゃべれなくなるし、人を溶かしてしまう。それに気づかないで陰陽師に相談してるってわけです」
それはまた、本末転倒というか、大迷惑な話だな。話がしたいだけなら、日記に思いを吐露すればいい。アナログに紙の上に思いを綴れば、誰にも秘密がバレることなく、尚自分の気持ちと冷静に向き合うことができるのだから。
「それじゃ、報告会を始めるわよ」
若林はうふっと蠱惑的に唇をゆがめた。ああこの人、男が好きそうな色のリップ塗ってるなとすぐにわかった。ほんのり色ずく桜色。でもそれが似合う者にはなかなか出会えない。
「じゃ、牛丸ちゃんからお願い」
「はい。えっと、昨夜フタマルサンマル時に港に到着。すぐに怪異なるものがあらわれるも、丸腰だったんでなにもできず。喰われそうになったところを黒装束の一撃で撃破。後から若林さんと合流」
「ちょっと。あたしが使えない上司みたいに言わないでよ。一応これ、ボイレコでも提出するんだから」
「でも、事実なんで」
丸腰であんなのと向き合わせるなんて、普通考えられない。
「だからほら、牛丸ちゃんには二つも武器をあげたじゃない。パチンコとメンコ」
「どっちもあてられる気がしませんがね」
「それなら大丈夫っすよ? 武器の方がアレに引っ張られるから、確実にあたります」
なんだとう!?
「と、言うわけで報告会は以上」
「おわりっ!?」
雑な報告会に呆然としていると、泉がこんなもんっすよと肩を叩く。叩かれて、痛みが再発した。
「さあ、牛丸ちゃん。今日はもうおわりだから、取り敢えず病院に行きましょうか?」
なんだか若林が同伴してくれるらしいのだが、おれは小さな子供じゃないんだ。振り払おうとしたところで、思わせぶりに微笑みかける。
「アレ専門の医者じゃないとダメなのよ」
そうか。そういうもんなのか。
「じゃ、おれ、バイト行きますんで!」
泉は颯爽と去って行った。
つづく
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