第6話 陰陽師

「まぁ、夜だし。時間がないからぶっちゃけちゃうけどね。アレを実体化させているのは実質陰陽師なのよ」

「はぁ? 陰陽師って正義のヒーローでしょ?」


 おれは五芒星を描くマネをして見せた。


「なんだけどね。あの人たちも年月と共に考え方が変わってきたみたいなの。で、闇稼業に手を出した。あなたのお悩みお聞きします、と謳ってね。人って身内にも話せない秘密を簡単に赤の他人に打ち明けちゃうところがあるじゃない?」

「でも、だからってそんな。じゃあその陰陽師をしょっぴけばいいんじゃないですか?」


 チッチッチッと顔の前で人差し指を動かす若林は、軽く酔いが回ってきたようで、頬が赤い。


「どうしても裏が取れないとね。なんてったって陰陽師は表向き、正義の味方だからね」

「めんどくさいなぁ」


 おれは、若林さんがレンチンしてくれた冷凍唐揚げに手を伸ばす。うんま。


「でも、そのめんどくさいのがおもしろいらしくてね。悩み事を打ち明けてもらって、はいさようならってわけでもないらしいの」

「つまり?」

「アレを具現化するにあたって、もっと強い怨念が必要になる。そのために解決策を焦らして与えているの。ほら、人間って焦らされると燃えるじゃない?」


 あんたが言うと、別の意味に聞こえますよと忠告すると、うれしそうな笑顔で返される。


「三年待ちの枕なんて、そこまでして欲しいと思う?」

「おれはそんなん、いりませんけどね」


 枕なんて、バスタオル丸めておけば十分だ。


「でも、それを待ち焦がれる人がいる。おなじように、悩みの解決を陰陽師にたくして、お札をもらうために待ち続ける人もいる。つまりその間、焦れてるわけよ。そうすると怨念が膨らむって寸法。そしてできたのが、アレ」


 あー、なんだかますますわけがんからなくなってきた。おもちゃで倒せるくせに、怨念で膨らむ怪異なるもの。おれには見えて、若林には見えない。そんで、黒装束――。そうだ、黒装束は?


「黒装束は? アイツらはどうやって怪異なるものを嗅ぎ当てるんですか?」

「そっちは知らなーい。管轄外だし、肉体改造されてるし、あんまり関わりたくないし?」

「肉体改造こそ違法でしょうが? なんで調べないんです?」

「だーかーらぁー。尻尾がつかめないのよ。人が足りなさすぎて」


 待て待て。本気で人材不足ってワケかよ。そんなんで怪異なるものなんか始末させるんじゃねぇよ。


「おれは? なにか武器がないんですか? せっかく見えるのに、おとりになるだけなんてもどかしい」

「そう言われると思ってね。はい、これー」


 若林は古いクッキーが入っていたような缶箱の中からこれまたおもちゃのパチンコを取り出した。


「まさか、これでしとめろと?」

「一発一万円の球だから、サクサクしとめなさいよ」


 ありえねー。


 つづく

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