第7話 泉 圭一
深夜遅くになってしまった。たよりないおもちゃのパチンコを懐にしまい込むと、そろそろおいとましようか腰を浮かせたところで、遠慮がちにドアがノックされた。
コンコンコン、しばらくしてコンコン、そしてコン。
そこでようやく若林が腰をあげる。なんかの相図なのか?
ドアを開けると、まだ年若い茶髪の青年が現れた。
「いらっしゃい、泉ちゃん。今日もサポートありがとうね、ささ、あがってちょうだい」
泉と呼ばれた青年は、うす、と短くおれに会釈した。めっちゃイケメンで引くんだが。
「牛丸ちゃん。今日の功労者、泉 圭一ちゃんよ。ちなみに名前がアシンメトリーなの。すごいでしょ」
なるほど。そいつはめずらしいや。だけど、当の本人はそれがすごく嫌なのか、プイッと顔を背けた。
「若林さんは、そればっかり言うから嫌い」
かわいいっ。なんか今、すっごく母性本能をくすぐられたぞっ。男だけど。
「まぁまぁ。泉ちゃんの好きなエビグラタン作ってあげるから、ちょっと座って待ってて」
なぬっ? おれには冷凍唐揚げで、泉にはエビグラタンだとぉ? 別に、グラタンが好きなわけじゃないけど。優劣をつけられているような気分。と、思ったら、冷凍庫から冷凍グラタンを取り出している。なんだ、おなじようなもんか。
「あなた、牛丸さん?」
「え? ああ、はい。うん。牛丸 和彦です」
「タメ語でいいっすよ。おれ年下だし、臨時職員だし」
「ああ、じゃあ、うん。そうする」
なんだろう? 真のイケメンを前にすると、なんだか落ち着かない。ってか、警察に臨時職員とかあるんだな。
「泉ちゃんは見える子なんだけど、接近戦ができないから、タブレットで地図を送ってくれてるのよ。牛丸ちゃんもお世話になったでしよ?」
「ああ、あの地図、きみが作ったんだ?」
「それだけじゃないの。怪異なるものに初めて遭遇したのが泉ちゃんで、出現条件や物理攻撃について調べてくれたのも泉ちゃん。だけど、満月の夜しか出動できないから、臨時職員ってくくりになっているの。そこいら辺は案外シビアなのよね」
たしかに。そこまで情報提供してもらって臨時職員とは、また不便なことだ。
「別に。おれはそれでいいですよ。めんどくさい人間関係とか、飲み会への強制参加とか、そういうの嫌いだから」
「もーう、そういう泉ちゃん、かわいいー!! 食べちゃいたいくらいだわっ」
「あと、若林さんから身を守るためにも、ずっと一緒にいるのはこわい」
そうだよな。若林、ペロッと泉のこと食っちまいそうに見えるよな。
「今日の黒装束、おもちゃの剣だった?」
「ああ。あと、ちょっと聞いたことがあるような中性的な声をしてた」
そう、と泉が黙り込む。その目の前に、熱々のグラタンが置かれた。
「っす。いただきます」
そう言うと、泉はエビだけを先に食っちまった。残りのグラタンだけになったやつを、若林の前に押し出す。
「お腹いっぱいなのね? もう、少食、偏食、かーわーいーいーっ!!」
まじか。贅沢な食い方だな。ってか、そんなんなら冷凍エビでいいんじゃないのか?
「おれはこの、微妙にグラタンソースがかかったエビが好き」
なるほど。なんとなくわかってきたぞ。こいつもしかして、ボンボンか?
つづく
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