第5話 黒装束
「まぁね、普通ならいないと思うでしょうけど実際はね、アレがいたわけじゃない。黒装束の子たちはね、そのまんま黒装束って呼んでるんだけど。地球外生命体って言うのは大げさだけど、あの子たち肉体改造されちゃってるからね。しかも、かなりディープな方向で」
「はぁ?」
おれの口から予想外に大きな声がもれる。はっとして口を手で塞ぐも、若林に睨まれてしまった。
「気持ちはわからないでもないんだけどね。そうとしか思えないのよ。あの子たちには、アレが見える。そして物理攻撃ができる。あの身のこなし、普通じゃない。それこそ特撮ヒーローでもあるまいし、あんなこと、シラフでできることじゃない」
「肉体改造? そんなこと、本当にできるとでも?」
「黒装束を裏で誰かが操っているのは確か。でも、それが誰なのかまではまだわからないのだけれど」
「だったら、おれたちはなんのために出動するんですか? おれには見えて、若林さんには見えないものをどうやってやっつけろって言うんですか? まさかとは思うけど、おもちゃの剣でやっつけろって? そんなのバカげているそんなの、黒装束に任せてしまえばいいんだ」
そうもいかないでしよ、と若林が気だるくささやく。
「ただでさえ警察はなにもしてないってレッテルを貼られてるのに、民間の肉体改造された子たちに頼りっきりってのはよくないわ」
「じゃあ、どうやってアレを倒せと?」
うふっと、若林が笑った。ほんの少し、不安な気持ちに満たされる。若林が女物のスーツのポケットから出したのは、どう見ても水鉄砲でしかない。
「さっきの黒装束の剣といい、アレっておもちゃで簡単に倒せるもんなんですか?」
最速手を伸ばしたおれの手を払いながら、若林は目を細めた。
「見た目は普通のおもちゃの水鉄砲だけどね。入っているのは熱湯だから、扱いに気をつけてね」
「熱湯って。本体が溶けちゃうんじゃないですか?」
「そこいら辺はほら、特殊合金ってやつよ。持ってみる? タンブラー程度の重さはあるわよ」
そう言って若林は、一度払ったおれの手に水鉄砲を乗せる。なるほど、たしかにタンブラーっぽいな。
「黒装束の武器。あれ実はうちから盗まれたものなのよね」
「盗まれたって!?」
「それはまぁおいおい話すけど」
おれは頭の中を一度切り替えた。
「そうじゃなくて。熱湯なんかでアレを倒せるんですか? しかも若林さん見えないんですよね?」
「そこはあれよ。マトになってくれるだれかさんのおかげで、どこいら辺にいるかの検討はつくわ。それにアレはね、実のところほとんど水蒸気みたいなものなのよ」
はぁ? おれは今日何度目かの声をあげた。
「単なる水蒸気で、おれの肩を溶かすことなんてできます?」
「そこにね、人間の怨念が込められているのよ」
怨念。なんだか物騒なワードが出てきたな。
「ねぇ、人間の怨念ってどのくらいの力を持つと思う?」
そんなこと問われても、なんとも返事のしようがない。
「おれの肩を溶かす程度、とか?」
「うーん? 牛丸ちゃんひとりくらいなら余裕で溶かしちゃうかもね」
そんなおそろしいことをさらっと言わないでくれ。また背中に冷たい汗が伝った。
つづく
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