第21話 お節介



「うん……実はまだミユお姉ちゃんにも言い出せなくて。家でも『ダンス部入りなよ』って誘われてるんだけど、私どうすればいいのかわからなくて……ニャハハ〜」


 これは悪いことをしたな。自分の我儘に付き合わせるべく弟子に不用意な負担を掛けるだなんて師匠が聞いて呆れるな……今日にでも家族には打ち明けるべきだろう。


「ごめんな、木下さん」


「え!? 何で急に謝るの?」


「俺との秘密を忠実に守ってくれてたんだろ……俺が不甲斐ないばかりに心理的な負担をかけてしまった。だから謝る、すまない」


 彼女が俺に対して真摯に向き合ってくれてるのは非常に嬉しい心構えだが、彼女の人柄を理解して先手を取れずに、配慮に欠けてしまったことを申し訳なく思う。


「あわわわ……だ、大丈夫だよニッシー!! そこまで負担に思ってた訳じゃないし、私が不器用だっただけの話じゃん……だから顔を上げてよ、居心地悪いから」


 そういう事ならば仕方ないな……真横へのぷちお辞儀をやめた。


 俺との秘密の関係を松本さんに仕方なく共有して、恐らくその流れで小山さんにも知れ渡ってしまったのは別に構わなかったが、まさか木下さんがここまで俺の言いつけを従順に守ってくれるとはな。


 これは今後何かしらの支持を出す度に何度も吟味しなければならないようだ。


「そうか……それじゃあ謝るのはこれくらいにするが、家族には今日中に言っておいた方が良いだろう。週に2日も帰りが遅くなるのは不審がられると思うぞ」


 仮にそれで木下さんの親が厳格だと仮定した上で説教をかまされていたようならば、俺の方から直接出向いてお詫びと共に土下座をしに行かなきゃならない。


 今後も木下さんとの関係を継続させていく上で、師匠の勝手な我儘や都合で弟子が不利益を被る状況は決してあってはならない……俺がしっかりしなくてどうする。


「うん、そうだよね……お姉ちゃんも私がダンスに興味持った理由を気にかけてたし。ニャハハ〜」


 それは姉からすればさぞ疑問に思うだろうな……妹がダンスに興味を持ったと言うのに何故かダンス部の部長である自分を頼って来ないのは筋が通っていない話だ。


「ああ、そうだな……家に帰ったらすぐに言ってあげてくれ」


「そうだね……ナゴミンとアイスとの昼飯を抜け出す口実にお姉ちゃんを理由にしちゃったし、事情を説明してあげないとね……」


「ああやっぱり言ってなかったのか……そうだな、ママにも言っといた方が良いだろうな」


「え、お弁当の件もママに? 私、朝早く起きてママにもバレないようにパッと作って来たから大丈夫かなって」


 クーっ……なんて従順で尊い存在なんだ。わざわざお弁当を作るために『内緒にする』秘密も守ってくれるしご飯も美味しいし、絶対に将来に良いお嫁さんになるぞ。


 と同時にまた一層申し訳なくなるな……木下さんのママが何時に起床するかは知らないが、つまり普段よりも木下さんに睡眠時間を削らせたとも言い換えられるのだ。


 俺へのお礼のお弁当ごときのためにそこまで粉骨砕身してくれるのは気が引ける。


「木下さん……善意を受け取ってる俺からすれば非常に有難いんだが、もうちょっと自分を大事にというか……自分の中で優先順位に線引きを引いて欲しいんだ」


「優先順位?」


「ああそうだ……俺との関係を大事にしてくれてるのは素直に嬉しいけど、俺なんかよりも自分自身、それから家族との人間関係の方が遥かに大事だろ」


「えっ……ああ、うん……もちろん家族や友達は大事だけど、私はニッシーとの関係も大切に思ってるよ?」


 何だと……まるで天然の男殺しだな……なんでも無いかのようにそんな照れ臭いようなセリフを吐けるだなんて受け手のこっちが悶絶してしまうが、今は後に回そう。


 照れ臭さを押し込めるようにして我が弟子へと言い聞かせていく。


「……ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいんだが、それでも優先順位を明確に定めていた方が絶対に良い。俺からは自分自身を1番に据えておくのをお勧めする。特にお前の場合は素直過ぎるからな……汚い手を使う人間に引っ掛かってしまったら、真意を知りもせずに簡単に罠に嵌りそうで、危なっかしいったら無いんだよ」


 居ないと信じたいしクロワッサンは決してそういう手を使わない人間であることは知ってるんだが、世の中にはきっとすぐ近くに女を騙して酒を飲ませ、そのまま肉体関係を持っても何かしらの手段で脅迫されて渋々遊びに付き合わせるような男も実在するだろう。


 そんな奴に木下さんが目をつけられたら容易に蜘蛛の巣に絡め取られるだろうな……基本的にはのほほんと過ごしてるだろうし、松本さんがムキになるのも無理はなかろう。特に目の前のこいつは可愛いからな、多少は自衛の大切さを知らないと。


「へ、……あ、ありがとう……」


「木下さんが本当に困ったときに自分自身を救えるのは結局、自分自身しか居ないんだよ。自分以外を優先するのはお優しいことで眩しいが、先ずは自分自身を優先させてくれ。俺のご機嫌取りごときのために、そこまでして頑張ることは無いからさ」


 この子には他人を優先するばかりに自分自身が損し続けて折角のチャンスを取り逃すような、そんな中身が空っぽな半端野郎には決してなって欲しくないからな。


「……うぅ……」


 しまった……ついついマシンガントークをしてしまったら木下さんが真っ赤になりながら俯いてしまった……これはお節介な説教気取りの痛いやつに思われたんじゃ。


 うわあ〜しかも思い返してみれば俺かなり厨二病臭いセリフや見当違いな心配事も垂れ流してたよな……何だか猛烈に恥ずかしくなって来たぞ俺も。


 これは結構気まずいぞ。


 さっさと謝ってこの空気を空中分解させてしまおう。


「あー、その……木下さん? 説教かましくてすまん、今のは忘れてくれても──」


「う、ううん!! そんなこと、ないからっ……。ニッシーの言葉、すっごく心に響いたから大事にするね。今はまだ難しいかもだけど、自分なりに考えておくから!」


「そうか……それは良かった」


 言葉がしっかり浸透したならば少しは恥を忍んだ甲斐があったかもな。


「それに……」


 何だか言葉を溜めるかのような間を作ったので、気になって横を向いてみると。


「ニッシーが私のことを大事に思ってるのが沢山伝わったからすっごく嬉しいよ……えへへ〜。だから私のことを思って、色々教えてくれてありがとうね。ニャハハ〜」


「──〜〜〜〜っ」


 木下さんが顔を赤くしながらも気持ちをぶつけて来たせいで今の俺には効果抜群だったが、そのせいで居た堪れなくなって視線を逸らさざるを得なかったのだ。


 思っくそ照れてしまったせいでもう木下さんの顔を視界に映すことが出来ない。


(んがあああああああっ!!)


 冷静に先程の俺のセリフを分析してみたら丸で子を心配する親みたいじゃねえかバッカじゃねえの!? あんなこと言わなきゃ良かったっ!! 今すぐ過去に戻って自分の口にガムテープ貼り付けてええ!! 今すぐ消えてえよ!! クッソ……っ!!


 聞く人が聞けば彼女を本気で心配する彼氏のようにも聞こえるじゃねえか。これはかなり悶絶させられるぞ、きっとこの場に俺1人しか居なかったら頭を抱えていた。


 いや落ち着け流石に弟子の目の前でそんな無様を晒すのは幾ら何でも恥ずかし過ぎてあの世へ旅立てるぞ……そうだ、このときのためにバナナ&ミルクジュースだ。


(ごく、ごく、ごく)


 よし、流石毎日飲むだけのことはあるで顔に湧き出る羞恥の熱が少しずつ引いて行くのを肌で感じる。


 流石俺の魔法のポーションだな……今までも練習終わりや学校終わりで飲むたびに、前の時間まで消費したMPを回復するような感覚でずっと飲んで来たからな。


 それにそうだ……まだ木下さんの弁当を完食してないからすぐに食べてしまおう。


 チラッと横を見ると木下さんもゆっくり食べ始めたのでしばらく無言で頬張った。


「……んっ、ご馳走様でした」




【──後書き──】

 まだまだデレの出力が30%くらいと言ったところでしょうか。

 作者的にも本作においてはまだまだ序の口ですので。

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