第19話

 ダンジョンマスターになった際にダンジョンコアから与えられた膨大な知識。その中にあった自分が守るべきアーティファクトの知識を熊翔が説明すると、それを聞いたレオーラとパルコーは揃って顔を青くした。


「な、何ですの? その馬鹿げたアーティファクトは?」


「それって自分は不老不死になるけど、自分以外の全てを世界ごと滅ぼすってことですよね? そんなの意味がないじゃないですか?」


 震える声で言うパルコーの言葉に熊翔が頷く。


「そう。手に入れても何の意味もない代物なんだよ、ここにあるアーティファクトは。それでも装着したら不老不死となるのは本当だから求めてくる人間は後を絶たない。そして解放されたら冗談抜きで世界の一つは確実に滅ぶ。迷惑な話だよ、本当に」


「というか、このままでは世界より先に私達が滅びますわよ。旦那様、一体どうするおつもりですか?」


 レオーラの言う通り、ダンジョンの力で生きている熊翔達は、アーティファクトを奪われてダンジョンが停止したら死んでしまう。そのため彼女が今下の階にいる侵入者の兵隊達をどうするかを聞くと、熊翔は光の板を見てやる気のなさそうに答える。


「いや……。別に俺達が何もしなくてもいいと思うぞ? 見てみろよ」


 熊翔に言われてレオーラとパルコーが光の板が映し出す下の階の様子を見ると、そこでは侵入者の兵隊達が大いに混乱して統率を乱していた。


「これってどういうことですの?」


「……ああ。そういえば、このダンジョンって何をしても明かりがつかないんでしたっけ?」


 混乱している兵隊達の姿を見てレオーラが首を傾げていると、その隣でパルコーが兵隊達が混乱している理由に気づく。レオーラとパルコーもフレッシュゴーレムになりダンジョンの暗闇を見通す視界になれて忘れていたが、このダンジョンは火をつけても明かりの魔法を使っても光が生まれることがなく、レオーラとパルコーもそれが理由で何もできないまま一度死んだのであった。


「そうだ。これがこのダンジョンの今のところ唯一の防衛設備『光と癒しを否定する闇』だ。このダンジョンでは一切の明かりをつける行為と傷を治療する行為が無効化される。元々は厄病呪毒若命鏡鎧の力を抑えるための設備らしいが、やっぱり侵入者の撃退するのにも役立っているみたいだな」


 熊翔が光の板に映し出されている混乱している兵隊達を見ながら、このダンジョンの防衛設備を説明するとレオーラとパルコーが嫌そうな顔となる。


「役立つどころのはなしではありませんわよ。アーティファクトどころか防衛設備も物騒ですわね」


「周囲の様子が分からない上に傷の治療も出来ないって……。本当に私達が何もしなくても、そのうち同士討ちを始めて自滅しそうですね」


「まあ、それより先に『アイツら』に始末されるだろうな」


 そう言う熊翔の視線の先には、侵入者の兵隊達の上空を飛ぶ数十匹の蝙蝠の群れ、カラミティーズの姿があった。

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