第22話 平和条約

「もう先生、酷い! なんであたしに教えてくれなかったの?」

「ごめんごめん。でも教えた所で、何も変わらなかったと思うよ?」

「変わるもん! もうちょっと……丁寧に接したりしてたし」

「それは距離を感じちゃって嫌だなぁ。僕は今みたいなルナの方が好きだよ?」

「う……うぅ、もう! そういうの反則!」


 僕の子供の頃もそうだったが、最強と言う称号は子供達に大人気だ。

 魔法使いを目指す者は魔聖に憧れ、剣士を目指す者は剣聖に憧れる。


 きっと魔法使いを志し、魔法学校に進学したルナちゃんにとっても、魔聖は色々と思い入れが深い称号だったのだろう。


 ルナちゃんはぷりぷりと怒りながらも、僕にチラチラと憧れのスーパースターでも見るような眼差しを向けてくる。

 仕方ない。ここは現実を思い出させてやろう。


「ルナ。さっさと戦う準備をしないと、スカートを捲るよ?」

「すぐさま準備させていただきます!」


 魔法の実力が付いてきたことで、僕の実力も朧気ながら分かって来たのだろう。

 僕が本気を出してスカートを捲りにかかったら、ルナちゃんではまず抗えない。


 僕は日頃からルナちゃんのパンツを見たいと公言しているし、ルナちゃんもそれを知っている。


 今日は人も多くて動き回るから下にスパッツを履いて来いと指示はしたが、それでもスカートを捲られるのは嫌なようだ。

 ルナちゃんは、物凄い変わり身の早さで僕に敬礼をし、そして準備体操を始めた。


「前から思ってたけど、魔聖の師弟関係は絶対におかしいさね」


 ヘカトリア団長はジト目を向けて僕に言う。


「いえ団長。先生はあぁ言う事で、余計な事を考え始めたルナ後輩がちゃんと訓練に集中できるようにしたのです。パンツを見たい気持ちは半分くらいしかありません」

「半分もあるのかい……」


 流石ノノ。僕の事をちゃんと分かってる。

 しかしそこまで僕を理解し、尊敬もしてくれているのに、何故彼女は一向にパンツを見せてくれないのだろう。


 ツンデレさんかな?

 肝心な所でツンになるツンデレはブーイングものだよ? 


「それじゃヘカトリア団長。いつも通り、テキトーに対戦相手を見繕ってください」

「あいよ。まずはこの春入ったばかりの新人で小手調べといこうかねぇ」


 僕が教え子をここに連れてくる時。

 僕とヘカトリア団長は毎回賭けをしている。


 その内容は、僕の教え子が<魔術師団>の団員を五人抜き出来るかどうか。


 団員・・をだから当然、対戦相手としてヘカトリア団長と副団長であるノノは参加できない。

 なのでこちらにも充分に勝ち目のある戦いではあるのだが、如何せんルナちゃんは実戦経験が不足していた。


 傍にいるヒナが色々アドバイスをしてくれるとは思うけど、ヒナもまだ大精霊になってからそこまで日が経っていなそうなんだよな……。


 当たり前だが賭けられるのは、自分の部下、教え子にだけだ。

 ヘカトリア団長は五人の内、誰かが勝てる方に賭ける。そして僕は勿論ルナちゃんが五連勝する方に賭ける。


 毎度賭けをする度に、そのレートは高額になってきている。

 最初は銅貨一枚とかでの賭けだったのに、前回は黒金貨十枚がチップだった。


 今回か次回あたりからは白金貨が登場してもおかしくない。

 ……ほら、ヘカトリア団長が白金貨を一枚ノノに渡した。


 前回からレートが十倍にも跳ね上がってる計算になるぞこれ。


「ほら、魔聖の坊やも早く白金貨出しな」

「くっ、強気ですね」


 毎度の如く賭けの親的役割をしてくれるノノに、僕はなけなしの白金貨を渡す。

 これで負けたら十万ゴールドの損失だ。


「先生、別に団長の煽りに乗らなくても良いんですよ?」

「い、いや、僕は教え子を信用しているからね。このくらい訳ないさ」


 僕はそう言ってヘカトリア団長を睨み付ける。

 今回も、勝たせてもらいますよ。


「ひっひっひっひ。アタシはここ数年、この賭けが唯一の楽しみでねぇ。このために団員達を必死に育て上げてるんだ」

「<魔術師団>の団長がそれで良いんですか……?」


 元はルールや決まり事にうるさい、とても厳格な人だったと思うのだが、いつの間に部下を使ったギャンブルに嵌ってしまったのだろう。

 これはもしかしなくても、最初に賭けを提案した僕の責任か?


「天下の魔聖様も似たようなもんじゃないか。国に身を置くことなく、ふらふらとそこらの子供を育成している」


 賭けのために部下を育成するヘカトリア団長と、パンツのために女の子を育成する僕。

 なるほど、確かに文字に起こしてみれば似たようなものかもしれない。


「団長! 準備完了しました!」


 すると、最初の対戦相手の準備が終わったようだ。

 短髪で背の低い女性団員が、ヘカトリア団長に向かって大声で叫ぶ。


「よし。それじゃあ始めようかい。嬢ちゃんも準備はいいかい?」

「はい! ばっちりです!」


 入念に準備運動をしていたルナちゃんも準備万端。

 何やらヒナと二人で話し合っていが、何を話していたのだろう。


「先生! あたし、きっと全勝して帰って来るから、ちゃんと見ててね?」

『わたしも頑張って来るわ~』

「あぁ、ルナ達ならきっと出来るさ。ほら、行っておいで!」


 僕はルナちゃんの背中をパンと軽く叩き闘魂を注入。

 そしてルナちゃんは小走りで対戦相手の元へ向かって行った。


「流石は私の後輩。先生への健気な想いがこちらにまで伝わってくるようで、とても可愛らしいです」

「これでパンツを見せてくれたら言う事なしなんだけどね」

「あ、それはダメですよ先生。我々教え子同窓会と幼馴染・親友連合の間では平和条約が結ばれてるので」

「平和条約って何!?」


 教え子同盟はその名の通り僕の教え子の集まりなんだと思うが、幼馴染・親友連合は初耳だ。

 多分、セリアと第二皇女殿下の事かな?


 たった二人で連合を自称するとは流石の傲慢さである。

 にしても平和条約って――君達戦争でもしてたの?


「平和条約第九条。『先生|(リロイ)にパンツを見せてって言われても見せちゃダメ』。これを破った者には両陣営から重い罰が課せられます」

「何そのピンポイント過ぎる条約! 僕が一体何したってのさ!」

「私達教え子としては、先生にならいくらでもパンツを見せてあげたいのですが、幼馴染・親友連合が絶対にやめろと警告してきまして……」


 ちくしょう、幼馴染・親友連合め! 

 良いじゃないか教え子にパンツを見せて貰っても!

 僕が家庭教師として働く意味を潰さないでくれ!


「『そちらがパンツを見せるなら、こちらもパンツを見せるしかなくなる。それでは皆が皆、アイツにパンツを見せまくる不毛な争いになってしまうわよ』、というのが自称幼馴染の発言です」


 大歓迎じゃないか、パンツ見放題な不毛な争い。

 僕はそんな天国を体験したら魔王だって倒せる気がするよ。


 一体どうしてそこでパンツを見せないって発想になるんだか!

 パンツは戦争の抑止力か?

 違うだろ!

 パンツは平和の象徴だ。


 パンツを見れば人は笑顔になれるし、パンツを見れば争う気も失せる。

 だからもっと人類はパンツを崇めるべきなんだよ。


 具体的には、祝日に国旗代わりとして勝負パンツを玄関前に立て掛けるとか!


「そして自称親友はこう言いました。『戦いにはがルールが必要』、と。そうして我々の間で結ばれたのが平和条約なのです」

「なんてこった、あの第二皇女殿下め。奴のせいで教え子が僕にパンツを見せてくれないのか!」

「魔聖の坊やとノノの話を聞いてると、頭がおかしくなってくるさね」

「すみません、先生。私の力が及ばなかったばかりに……。先程も先生がいらっしゃったと聞いて、急いで勝負下着に着替えたのですがお見せすることが出来ません」

「見せてくれないならそこは黙っていて欲しかったよ! 勝負下着と聞いたら俄然見たくなるじゃないか!!」


 くそ、平和条約とかいうまるで平和をもたらしていない条約が憎い!

 僕は地面に膝を付き、ノノの勝負パンツを見れない悔しさを拳で床を殴る事で紛らわせる。

 ちくしょう、ちくしょう!


「先生。私のパンツをそんなに見たかったんですね……! 私、嬉しいです!」

「アタシは一体何を見せ付けられてるんだい……」


 これは後で幼馴染・親友連合に文句を言いに行った方が良いかもしれないな。

 このままでは、永遠に教え子のパンツをこの目で拝めない。


「それにしても、本当に魔聖の坊やは教え子と仲良くなるのが上手いねぇ? なんかコツでもあるのかい?」


 すると、ヘカトリア団長が僕にそう尋ねる。

 確かに教え子とはいい関係を築けていると思うけど、僕の何倍も生きているヘカトリア団長に言えるような事は無いかなぁ。


 強いて言えば――


「――……パンツを要求する事ですかね?」

「……坊やに聞いたアタシがアホだったよ」


 まぁ確かに僕のやり方をヘカトリア団長が真似するのは難しいだろう。


 だって五十過ぎのおばあさんが、年下のうら若き乙女にパンツ見せてくれって頼み込むのは……もう絵面がヤバい。

 せめてブラジャーなら何とかなるかもしれないが……いや、やっぱどっちもどっちだわ。 


「先生、団長! 試合の方、始まりますよ!!」 


 ノノのその言葉を聞き、僕達は試合の方へ意識を傾けた。

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神家庭教師の僕は教え子のパンツが見たい~最強魔法使いは育成しながらハーレム目指す~ 蒼守 @apmwmdj

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