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「はぁ……今日も平和な一日だった……」
無事に学校を終え、夕食も済ませた私は、そんなことをぼやいていた。ソファにごろんしながら、ひとつ息をつく。
リビングにはいま誰もいない。両親はともに仕事で帰ってくるのは夜中になるし、汐音はお風呂の準備をしてくれている。
あー、ひとりきりの時間が心地いい。ヘタするとこのまま寝てしまいそうだ。
おなかをぼりぼり掻きながら、まどろみに身を任せようかと悩んでいると、ふいに影が落ちてきた。
目を開ければ、汐音が覗き込んでいて。くすくすと笑っている。
「な、なに? 私ヘンな顔してた?」
「あ、いえ、可愛い寝顔だなと思ってました」
「可愛くはないだろー、ゆるキャラじゃないんだぞぅ」
「わたしにとっては世界一可愛いです」
「……っ」
あの、照れるからそういうこと言わないで欲しい。
真っすぐすぎる眼差しから逃げるように、目を逸らすと、汐音が手を差し伸べてくる。
「お風呂沸きましたから、入りましょう?」
「う、うぃ……」
汐音に連れられ、とぼとぼ歩きながら脱衣所へと向かう。脱衣かごのあるとこに立たされ、バンザイさせられた。
衣服をするする脱がされ、あっという間に生まれたままの姿にされてしまう。昔は裸を見られるのに抵抗があったんだけど、いまはもうそんなのない。慣れって恐ろしいね。
「……」
「なに、そんな釘付けになるとこある? ご飯のお供になるかなとか考えてる?」
「おかずには、なりますから」
え、なにその目。獲物を狩る肉食動物のような目つきをしおってからに。
寒気のせいかぶるっと身体が震えたので、もうさっさと風呂場へ直行する。
ややあって、汐音も入ってきた。彼女もすでに生まれたままの姿だ。
「……っ」
私とは違う身体つき、魅力的な肢体に、同性でありながらも見惚れてしまう。
向こうは少し恥ずかしいのか、頬を朱に染め、身体をよじっている。なんかヘンな気分になりそうなので視線を外しておく。
「お姉ちゃん、椅子に腰かけてください。きれいきれいしますから」
「あ、頼むね」
どっこらしょと座ると、シャワーで全身を流される。それから泡立てたシャンプーでごしごしと髪を洗われていく。
「あー……極楽浄土」
「ふふ、ダメですよ。勝手にいなくなったりしたら」
「ならないならない。私は汐音からお世話してもらわないと生きていけない身体になってるんで」
「……わたしも、離しませんからね。ずっと、ずーっと」
耳元でささやかれ、こそばゆい。
わしゃわしゃと気持ちのいい感覚が続き、ついでシャワーのぬるま湯が頭皮に沁みこんでくる。
しっかりと水気を切られ、汐音が今度はスポンジを泡だて始めた。
「身体の方も洗っていきますね」
「ん、お願いー」
痛みを感じない程度にごしごしと洗われていく。けれど敏感なとこを触られるとくすぐったくてビクッとなる。
「ごめんなさい、痛かったですか?」
「ん、いや、へーき。ちょっとくすぐったいだけ」
「こことかですか?」
「ひゃぅ――っ!? ちょ、脇腹はやめて」
「ふふっ、お姉ちゃん女の子みたいな声上げてます」
「一応、女で通してるもので――うひゃひゃ!!」
「優しくしますから、大人しくしててください」
無茶言わんでほしい。というか、途中からスポンジ使ってないんだけど。
手のひら全体でまさぐられ、だんだんと変な気持ちになってくる。
「んっ……ふっ……」
「お姉ちゃん、感じてるんですか?」
「なんか、いつもと、違くない?」
「当たり前じゃないですか。だって、」
汐音の声が、吐息が、耳元に触れてくる。
「……お姉ちゃんはもう、わたしのものなんですから」
「へ?」
「今朝、宣誓してましたもんね? わたしのお世話になるって」
「いやまあ確かに言ったけど」
「わたしのすねをかじるんですから、その分ちゃんと対価を支払わなきゃいけませんよね」
「え、なに、働けって?」
「働かなくていいですよ。わたしが欲しいのはお姉ちゃんのすべてですから」
「……はい?」
「そのちょっとけだるげな視線とか、くせのある髪とか、揉み心地のいい身体とか、頑張らないことを頑張ろうとする心とか……それに」
いつの間にか前へと回ってきてた汐音が、覗き込んでくる。
その整った顔立ちに視線が捕らわれていたら、急に近づかれて。
「――んっ!?」
私の唇に、なにか柔らかなものが触れた。
それが汐音の唇だと気づいたのは、彼女の顔が遠ざかっていったあとで。
だんだんと顔が熱を帯びてくる私に、汐音が妖しい笑みを浮かべて言ってきた。
「ふふ、お姉ちゃんのファーストキス、奪っちゃいました」
「なっ、ななな……!? なにやってんの!」
「なにって、キスしたんですよ?」
「だからっ、なんでそんなことしたのかって、」
「好きだからに決まってるじゃないですか」
「ふぇ?」
真顔のマジトーンで返され、私はとぼけた声を上げることしかできない。心臓が信じられないぐらいバクバクと逸って、ぽっくり逝ってしまいそうだ。
そんな私を抱きしめながら、汐音がささやいてくる。
「好きです。ラブです。愛してます。渚沙お姉ちゃん」
「……わ、私っ、女なんだけど……てゆーか、姉妹……」
「わたしは気にしませんし、そんなのどうでもいいです。やっと、お姉ちゃんが手に入るんですから」
「いや、あの、急すぎてついてけないというか……」
「お姉ちゃんはわたしのこと、嫌いですか?」
「……き、嫌いではないけど、そういう目で見たことないし」
「なら、そういう目で見てもらえるように、心と身体に教え込まなきゃいけませんね……? じっくり時間をかけて、わたしだけを見て、わたしのお世話を甘んじて受けられるように」
なになに怖いんですけど!
お互いに泡まみれになりながら、汐音の目が私を射抜く。今朝見た、いつもと違う目つきがそこにはある。妖しい目つきだ。
「絶対に、離しませんからね? もしも、逃げようとしたら」
「に、逃げようとしたら?」
「……くすっ」
彼女の瞳に映る私は、この先のことを考えてるかのように、ぼんやりとしてる。
そこにはきっと、汐音の姿があって。すねをかじってる私の姿もあるのだろう。
ま、なるようになるよね……? 好かれてるみたいだし、お世話してもらえることに変わりはないし。
こちとらダメ人間よ。堕ちることには慣れっこ。深く考えるのはもうやめだ。
だから、その、お手柔らかにお願いね……?
義妹のすねをかじって生きていきます! ~クズみたいな宣誓をする私を、美人の妹が妖しい目で見つめていた~ みゃあ @m-zhu
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