2
今朝のちょっとした事件を乗り越え、私は学校へとやってくる。汐音は一年生の教室へと向かったので、途中でお別れだ。
二学年の教室までたどり着き、自席に腰かけた私は、ぐでーと身体を天板につけた。
「うへぇー……」
「お、渚沙なにやってんの? なまこごっこ?」
「違うでしょ、これはウミウシの真似だよ」
「どっちも違うわい。どうみてもリラックスしてるだけでしょーが」
ジト目でそちらを見やると、話しかけてきた友人たちが軽い笑い声を上げる。
それから面白そうに突っついてくる。
「ヤバ、柔らか。渚沙の肉柔らか」
「誰がA5ランクの脂身だって?」
「そこまでは言ってないし。てか、脂身って」
「ほんと羨ましい身体してるわ。女の子らしいっていうかさ」
「誰がデブだって?」
「肉付きがいいだけでしょ。それにいうほど太ってないから」
すらっとしたお前たちには分かるまい。ぽちゃの気持ちが。
ま、べつに痩せる気はないけど。動けなくなっても汐音が介助してくれるだろうし。
のほほんとした気持ちでいる私をよそに、二人は会話を始めた。
「妹ちゃんと比べても可愛げがあるよ」
「それそれ、愛くるしいマスコットキャラみたいな」
「おい、それなんかウチの汐音が可愛げがないみたいだろ」
「……」
「……」
「なぜ黙る」
「……あー、美人だとは思うよ。みんなから好かれてるしさ」
「……そ、そうそう」
なんだこやつら、歯切れの悪い。
急に挙動不審になったのが気になったものの、特に追及する気はない。美人はやっかみを受けやすいってなんかの記事に書いてあったような気もするし。
と、デマっぽい話に思考を預けていると、ふいに舌打ちっぽい音が聞こえた。
瞬間、友人二人がビクッと、肩を跳ねさせる。
「ん、どしたん?」
「あ、いや……」
「そ、その……」
「お姉ちゃん」
「あれ、汐音じゃん? なんでいるの」
二人の後ろにいつの間にか汐音がいた。朝日に照らされるその立ち姿は思わず見惚れてしまうほど美しく、周りにいたクラスメイトの歓声が止まない。
そんな中、友人二人が間を開けて、割り込むようにして近づいてくる。
「お姉ちゃんお弁当忘れてましたよ? ほら」
「あ、ごめんごめん。気づかなかった」
「ふふ、いいんですよ。お姉ちゃんの抜けた部分はわたしが補ってあげますから」
「ひとを空っぽの頭みたく言いおって。生意気な妹め、こうしてやるっ」
「いっ、いひゃいです~」
私はちょっと怒ったふりをしながら、頬っぺたをつまんでぐにぐに伸ばしてやった。普通に抵抗されそうなものだけど、汐音はやられっぱなしで、しかもなんだか嬉しそう。
この子、こういうとこあるんだよね。いい子過ぎるから抵抗しないっての? クラスとかでいじめられてたりしてないよね、お姉ちゃん心配だぞ。
ま、その場合は親衛隊(なんかそういうのがあるらしい)がなんとかするか。
いらぬ心配をしながらぐにぐにしてる私を見て、友人たちが焦ったような顔をしている。
んー、まあそうか。美人の顔を人前でいじくるのはいただけない。それに男子連中の視線が痛いのだ。
「あっ、もうやめちゃうんですか?」
「お姉ちゃんダメ人間だけど、理性はあるからね」
「そうですか……。あ、わたしそろそろ戻りますね」
「ん、じゃまた」
軽く手を振ると汐音はペコッとお辞儀をして、教室を出て行った。歓声に沸いてる周りをよそに、友人二人がつかれたような顔をしている。
「……去り際、マジに睨まれたんだけど」
「……渚沙に触れてたの見られてたのかも」
「二人とも、どうかしたん?」
「――え、ううん、なんでもない!」
「――な、仲睦まじいなと思ってただけ!」
そんなに褒めても、汐音のすねはかじらせてやらないぞ。
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