第41話(模擬戦⑦)16歳
【前回:わたしはリンナと対戦し、巻き戻しの魔法で勝った】
わたしとヘルミは休憩後に決勝戦を行うことになった。
オルガがつぶやく。
「得体の知れない研究生と狂犬の対戦か。正直、あまり盛り上がらないカードだな」
わたしはその言葉に苦笑した。確かに、わたしなんかよりも、ライラが決勝に残っていた方が観客は盛り上がっただろう。
「オルガったら、酷いわね。わたしにとっては大盛り上がりの展開だからね」。キーラが言った。「それにしても。アイカ、大丈夫? 何だか疲れているみたい」
わたしは「うん、大丈夫」と微笑んでみせたが、正直いって魔力不足でフラフラだった。
ヘルミとは万全の体調で戦いたかったが、致し方ない。敵はいつだって、こちらの都合に合わせてくれるとは限らないのだ。
そのとき、頭に包帯をまいたアレクシスが戻ってきた。バツが悪そうな表情を浮かべて。
「やぁ、どうもどうも。参ったよ」
「アレク!」
わたしはアレクシスに駆け寄ると、両手で彼の顔を挟み、瞳をのぞきこんだ。
「馬鹿なことをしたわね。具合はどう? ちゃんと回復魔法をかけてもらった?」
「アイカ、ちょっと、顔が近いって」
アレクシスは頬を赤らめ、わたしの手を払いながら言った。「問題ないよ。まぁ、まだ頭がズキズキするけどね」
今回の一件は、オルガの口車に乗って怪しげな魔法に手を出したアレクシスの自業自得だ。とはいえ、傷つけたのはわたしだ。アレクシスが包帯姿で力なく笑う顔を見ていると、胸が痛んだ。
アレクシスが言う。
「自分でも馬鹿なことをしたって、反省しているよ。でも、アイカと戦ったことで得られたものもあるんだ。自分の魔法のあり方を考える機会にもなったし」
その言葉を聞いたキーラが「当のオルガは反省していないようだけどね」と付け足した。オルガが無言でそっぽを向く。
アレクシスはわたしを見つめながら、なおも言った。
「それに、オルガに操られたおかげで、アイカとアイカの魔法についても、少しは理解ができた気がする」
「アレク、オルガに操られていたとき、意識はあったの?」
「うん、意識はあった。オルガと知覚を共有していたから」
アレクシスはわたしの魔法の秘密に気づいただろうか。
わたしはどう説明したものかと口ごもる。
するとアレクシスがニッコリと笑い、わたしの肩を叩いた。
「アイカ、負けるなよ。ここまで来たら、優勝を目指そう」
「うん」
「アイカなら、あの狂犬にもきっと勝てるよ」
わたしはうなずいた。
防御服を着込むと、わたしはキーラとアレクシスに見送られて観客席を降りて行く。
闘技場の手前で、ライラとリンナが待っていた。
ライラが言う。
「アイカ、こういう場であれば、あなたと戦えると思ったのだけど。現実はうまくいかないものね」
「先ほどは良い勝負でした。残念でしたね」
「お世辞は不要よ。でも、このままで済ますつもりはないから。ヘルミには次の対戦で、目にもの見せてやるわ」
「ふふ」
ライラは自ら魔法で戦うこと、そして勝つことにこだわりを持っているようだ。それがライラの皇女という立場と美しい容姿にはそぐわない気がして、わたしは何だかおかしくなった。
ライラがわたしに顔を寄せる。
「あなたのこともね。このままでは納得いかないから。次は授業ではなく、屋敷に呼ばせてもらうわ。そのときはよろしくね」
「お断りしてもよろしいですか」
「そんなのよろしくないに決まっているわ」
頬を膨らませたライラを見て、リンナが微笑みながら言った。
「お嬢さま。その話は授業が終わってからにしましょう。アイカにはこれからまだ決勝がありますから」
「う、それもそうね」
ライラは胸をそらすようにして、わたしを見た。
「アイカ、応援しているわ」
「ありがとうございます」
わたしはライラからのエールを受け取り、先に進む。すれ違いざま、わたしはリンナに黙礼する。
リンナとは、先程の勝負について何も話さなかった。健闘をたたえ合うのも、釈明をするのも、それは何か違うと思った。
リンナも内心ではわたしにいろいろ思うところがあるに違いない。それでも、互いに真剣に戦い、勝敗がついたのだ。その結果に言葉を付け足すことは、彼女も望んではいないだろう。誇り高き
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ヘルミは既に闘技場の中央で待ち構えていた。わたしが闘技場に上がると、射るような視線を投げてくる。
「やはりオマエが勝ち残ったか。最初に会ったときから、妙なヤツだと思っていた」
「ヘルミ、あなたこそスゴイね。みんなよりも2つ歳下なのに」
「年齢は関係ない。時間をかけたから強くなる、って訳でもないからな」
「それはそうね」
わたしは同意すると、声をひそめてヘルミにささやいた。
「ねぇ、わたし、あなたに興味があるの。あなたと手を組んで、魔法について学びたい」
「はぁ?」
ヘルミが呆れた声を上げた。
「ふざけているのか」
「ううん、ふざけてなんかいない」
「アタシは学校に友達はいらないんだ。お前と馴れ合うつもりはない」
「そうね。あなたは自分の強さを追求することに全てをかけているみたい」
「そうだ。アタシは強くなるために魔法学校に来たんだ」
「ヘルミ、わたしは何もあなたに、友達になって欲しい訳じゃない」
「じゃあ、何だ」
「わたしはパートナーがほしいの」
「パートナー?」
「わたしと肩を並べて、わたしの背中を預けられる、そんな相手を探していたの」
わたしは以前、レオから受けた忠告をずっと心にとめていた。
自分に出来ないことは、他人に手伝ってもらえばいい——。
ヘルミはわたしにはないものを持っている。彼女こそ、わたしが探し求めていたパートナーではないか? ヘルミの試合を見ながら、わたしはそんなことを考えていたのだ。
ヘルミがたずねた。
「オマエと組めば、何かいいことがあるのか」
「そういえば、何もないわね」
わたしは大まじめに返事をした。
「はぁ?」
ヘルミがまたも声を上げる。
わたしは答えた。
「確かに。わたしのパートナーになって、命を削ってもらったとしても、ヘルミには何のメリットもないわね。考えてみたら」
「ぷっ」
ヘルミが吹き出した。
わたしの前で初めて笑みを浮かべ、それから言った。「オマエはぶっ飛んだヤツだな。何だか調子が狂ってしまう」
「ねぇ、ヘルミ」
「何だ?」
「あなたって、いつも険しい顔をしているけど、笑うと愛らしいわね」
「ば、ばかにするな!」
ヘルミが声を荒げて怒った。わたしは本気でそう思ったのだが。
そのとき、教授が試合開始を告げた。
ヘルミが両手に短剣を構える。
「アタシは自分よりも弱いヤツに興味はないんだ。ゴチャゴチャ言う前に、オマエの力を見せてみろ」
わたしはヘルミの言葉にうなずく。もとよりそのつもりだ。
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