第33話 決意の朝

そして、本番の日の朝はとうとう来た。前日は眠れず、まるで、遠足前の子供のような状態だった。


今日のために、僕は己の全てをかけて練習をしてきた。そして、眠り続けている彼女に届けるために。 


今日は、家を出る前に布団で眠っている彼女の手を握って、改めて決意を表してきた。


今日は、今まで君が応援してくれてきた全てを注ぎ込んで歌ってきます。そして、君にきっと届けるように歌います、と。



持てる力は全て振り絞ってやる。 なんなら、ステージで倒れるくらいの勢いでやってやる・・・・!! 僕の胸はこれまでにないくらい高まっていた。


受付を済ませ、控室に行き、僕は本番前にまた、入念に練習とイメージトレーニングを重ねる。・・・・そして、今日のために着てきた一張羅の胸ポケットには、とわから貰った、大切な『お守り』を入れてきていた。 なんだかこれさえあれば、何も怖くない気さえしてくる。 


イメージを膨らませ、エネルギーを感じて、残りの時間を過ごした。


 でも、僕の心の中ではまだ、恐怖心がうずいていた。


 もちろん、今日は万全の準備をしてきていたけれど、ステージにいざ上がったら、プレッシャーにまた押しつぶされそうになるかもしれない。


・・・・それに、もし家で寝かしている最中に容体が急変してしまったらどうするのか。彼女の命の灯が消えてしまいそうな君を一人にしてよかったのか。


ずっとそんなことがよぎっていたけれど、そんな時、夢の中で彼女が言ってくれた言葉がフッと蘇ってくる。


(私は、まず貴方自身の夢を追って叶えて欲しいから。 どうか、まずはそれを大事にして。 ・・・私も私で、頑張ってみるから)


・・・・彼女もきっと、自分の中で戦い続けているんだ。 未知の病に立ち向かい続けているんだ。


 ・・・・だから、だから僕も今目の前にある舞台に向けて、意識を集中させねば。


そして、最高の歌を歌いあげなくては。 きっと彼女にも届くような最高の歌を。


自分の胸を、そっと三回たたく。



「大丈夫・・・・大丈夫。 きっとうまくやれる、それに・・・・とわも待っているんだ。 頑張れ・・・・頑張れ・・・・僕」





運命のその瞬間は、刻一刻と迫っていた。


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