第32話 夢の中でまた。

僕は夢を見た。 どうやら、僕は草原で寝そべっていたらしい。


爽やかな草原の香りが、とても気持ちいい。このまま、この草原で昼寝をし続けたい。


そう思って、ううーん・・・・とひと伸びをしてまた眠ろうとすると、頭の上から声が聞こえてきた。


「おーい、凛歌起きて!起きてってば!!」


なんだか凄く聞き馴染みのある声だった。透き通るように、そしてどこか強かさのある声。


間違いない。とわだ。


僕はすぐに飛び起きた。やはりとわだった。 



「とわ!?!? え、とわ!?!?」


嬉しさと共に、困惑と驚きが入り混じった複雑な感情があった。


「びっくりしたでしょ? ・・・・でもこれ、夢の中だからなの・・・ごめんね」



「ああまあ・・・そうなのか。そりゃそうか・・・・」



「うん・・・・でも、ああいう風に寝続けてるのは実は意味があるの・・・」


僕は少しびっくりした。


「えっ・・・・!? アレって病の影響なわけじゃないの?」



「いや、それももちろんあるんだけど・・・・実は、私がこうして眠り続けてるのは、無駄に身体を動かすことを極力なくして、肉体が消耗しすぎてそのまま事切れるのを防いでいるってのもあるの」


とわ曰く、この病は基本的に肉体に対して少しずつダメージを与えることによって、そのまま精神を蝕み、外中身共に苦しめ続けようとする狙いがあるとも言われていたらしく、とわはそれを逆手にとって眠り続けたまま動かないように自らを制御して、極力体力を消耗せずに、どうにか生き残り、そして目覚める事を模索しているらしい。


でも、そのことを僕に伝えきれず、混乱させてしまっていたから、どうにか伝えようと、夢の中に現れて伝えることにしたらしい。


「なるほど、そういう事か・・・でも、なんか変な感じだな。あれだけあった時は生きているのが嫌でしょうがなそうだったのに、そんな君が生き抜くために寝続けているだなんてさ・・・・」


「それは貴方もでしょ? 森で首をくくって事切ろうとしていたのに・・・ふふっ。お互い、生きることに執着する理由が見つかったのが面白いわね。 貴方は夢を追い続けるため、そして私はそんな貴方の夢を支えるため・・・・なんだか不思議ね」



「ああ、本当にそうだな・・・・。こんなに生きてて楽しいって感じたことないかもしれない。 どうにかとわも、しっかり起きて生きれるようにしないとな・・・・」



「うん・・・・でも、今はまだゆっくりでいいよ。私は、まず貴方自身の夢を追って叶えて欲しいから。 どうか、まずはそれを大事にして。 ・・・私も私で、頑張ってみるから。」


力強い瞳を向けながら、とわは言った。


「うん・・・・ありがとう。僕も、次の本番で眠ってる君にもきっと届くような歌を歌うよ・・・・夢を叶えて、そして君もちゃんと救い出してみせる。」


僕は彼女に誓った。彼女は、それに優しく微笑んで答えてみせた。


夢を叶えたその時には、必ず彼女も救い出す・・・・決心が改めて固まった。


「あ、でもあなたもそろそろ起きなきゃ。本番まであともう少しだし、しっかり練習しなさいよね!」


「もちろん。じゃあ、またね。」


うん、またーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





僕は目覚めた。気づいたら、もう辺りはすっかり真っ暗になっていた。


相当僕は長く眠っていたようだった。



夢の中の事をゆっくり自分の中で咀嚼しなおし、僕はこれまで通り頑張っていくことを決めた。


助手席の寝顔をまた見てみる。よかった、とりあえず穏やかな様だった。


彼女の頭を撫でて、僕は呟く。


「絶対に夢も君の事も成し遂げてみせるからな・・・!」


パジェロのエンジンキーを捻る。力強いエンジン音をさせて、鼓動が響いた。


エンジン音が高鳴っていくと同時に、僕の心も鼓動が更に強くなり始めた。


「よし、いくぞ!!」


クラッチを綺麗にミートさせ、パジェロを自宅に向かって力強く走らせた。


そして、残りの一週間も僕は全力で練習をし続けた。 これまで以上に思いを込め、息を吸い、喉を震わせ、練習を重ねた。  


本番は、もうすぐそこまで迫っていた。

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