第34話 運命の一瞬

そして、運命の一時間後。


僕は、舞台の後ろで今か今かと順番を待っていた。


カーテンの外に覗ける他の出場者たちの姿を見て、僕はまた、少しばかりの緊張と震えを起こしていた。 ものすごくレベルが高い歌唱力を持つ人たち、始まって早々に落とされた緊張しすぎて本来の力が発揮できなかった人たち。


何だか、自分でも見ているとそれが乗り移りそうで怖かった。手汗は凄いし、額からは汗が止まらない。 緊張は最大限に達した。


でも、僕はそれを少しでも和らげるために、胸ポケットにあるお守りを取り出し、見つめる。


大丈夫だ。 僕にはとわがついてる。君が支え続けてきてくれたこと、夢を思い起こさせてくれたこと、僕は決して無駄にはしない。すべてを出し切ってみせる・・・!!


お守りを胸に抱き留め、気分が少し落ち着いてきたとき、


「さあ、次の方、どうぞ。」


という、係員の指示が聞こえてきた。


「はい!!」


僕は、勢いよく返事をして、ステージの上に駆け上った。





僕は、三人の審査員の前、そして沢山いる間客の前に立つ格好になった。


審査員たちから、質問が飛んでくる。


「君、名前は?」



「白瀬凛歌と言います。 よろしくお願いします」



「今日は、なんでこのオーディションに来たの?」


「小さい頃からの歌手になりたいという夢を叶えるために、です。そして、僕の大切な人に届くような歌をこの場で歌いたいと思っています。」



審査員たちは、更に質問に踏み込んでくる。


「その、大事な人というのはどんな人なんですか?」


「精神的に追いやられていた僕を、救い出し、そして忘れかけてた夢を思い出させてくれた人です。・・・・今は色々あって寝たきりになってしまったけれど、そんな彼女にきっと届けるように今日は歌ってみせます。」



「なるほど・・・・分かりました。 では、早速歌っていただきましょう。」


本番で歌うのは、とわの前で初めて歌ったあの曲だ。 


イントロが流れ出す。 僕の心は、さっきまでの荒ぶるような過度な緊張から解き放たれて、自然と僕は心を静められていたし、感覚はよく刀鍛冶が磨き込んだ刀のように研ぎ澄まされていた。


イントロが終わりに差し掛かり、僕はスッと息を深く吸い込む。


そして、僕は歌い始めた。


今までの自分の全てを注ぎ込むように、今一番届けたい人に届けるために。

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