第32話 おっさん貴族〈バスタード伯爵side〉

 ルーザリアのために呼ばれた医者は、すぐそこで待機していたのかと疑うほど早くやって来た。


 そして時間をかけ丁寧に診察する。


 やがて診察が終わると医師がクラウン殿下に向き直った。




「問題ありません、心労による一時的なものでしょう」


「そうか……手厚く看護してくれ」




 最初からの約束で、これ以上彼女と一緒にいる事ができないと知っているクラウン殿下は、ガックリと肩を落とし部屋を出た。


 私は医師とそれを見送り、前を見たまま問いかける。




「どうだった?」


「はい。あれはいにしえより伝わる『魔眼』でしょう」


「誠か?」


「恐らく間違いないかと……」




 姿男が一礼して足音も無く去って行く。


 彼の見立ては確かだろう。


 何しろ鑑定魔法が使えるのだから。


 苦労して彼女に会う手段を講じただけの見返りはあったようだ。


 面会に『クラウン殿下の立ち合いの下であれば』と条件を付けられた時は参ったと思ったが、まぁそれほど厄介な事にはならなかったし良しとしよう。


 彼女はこれまでにない高値で売れそうな商品なのだ。


 どうせこのまま無罪放免になど、あの王妃がするはずない。


 そうなれば良くても修道院送り、悪ければ鉱山か?


 輸送中、盗賊に襲われたり、馬車が山道で事故に遭ったりするのは珍しい事ではない。


 その際、準男爵の娘一人消えた所で、揉み消すのは容易たやすいことだ。


 あとは買った者が良いようにするだろうし、金さえ手に入れば……あとは知らないほうが都合が良い。




 次のオークションが待ち遠しい。




 私はホクホクをした表情を隠すため、口元に手をやったまま仕事場へと歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る