第31話 不思議な力〈ルーザリアside〉

 おっさん貴族の話がまったく分からなかったかって言うとそうでもない。


 要は『殿下を騙したんだから、罪を認めて裁きを受けろ』みたいな事を言ってるんだと思う。


 でもそれは違う。


 私は彼らが何をしたいのか、何をしているのか、薄々分かってたけど聞かなかったってだけ。


 彼らも何も言ってこなかった。


 それがすべてなの。


 だから堂々と言える。




「私、何も知らなかったんです。フールがグレイシア様を見たって言うし、私は毒なんて知らないし……だから、私じゃないって分かって欲しくて……」


「そんな言い訳が通用すると思っているのかね?」


「で、でも……何も聞かされてません。本当なんです。──信じてくださいクラウン様!」




 おじさん貴族に必死に言っても手応えは無く、最後は一歩後ろで聞いていた殿下に懇願した。


 そしたらクラウン殿下がピクリと動く。




 あ……もしかして、もう暗示が効いてる?




 私のたった一つの武器。


 それは代々女系で受け継がれて来た暗示の能力。


 相手の目を見て強く念じるだけの魔法とは違う特殊な力。


 私の思い通りに動かせるほどの力は無いけど、相手が信じたい事を真実だと思わせる事は簡単だ。


 ほかにも好印象や悪印象を持ったなら、それを増幅させて極端な感情を持たせる事ができる。


 好きなものを嫌いにとか反対の感情にはできないけど、第一印象さえ良かったら良いの。


 見た目がかわいい私だもの、好きにさせるのは難しくないわ。


 好きになればお願い聞いてもらえるし、嫌いになって欲しい人の悪口言えばイメージ悪くなってくれる。


 すごく便利な力で、魔力感知に引っかからない優れ物。


 持続時間はかなり長いから問題ないけど、初対面だとよっぽど効き易い人でないと掛からないとか、心や体に強い衝撃や刺激があると解けてしまうとか、使うための条件はある。


 あと、かける時に瞳が少し光っちゃうのは欠点かな?



 今まで対象人物がそんな強いショックを受けたことなど無かったから、あの後どのくらい殿下の暗示が解けたかは分からない。


 それが今の不安要素。


 だからさっき、私の持てる力を精一杯使ったつもりなんだけど……どうかな?




「クラウン様。私が騙されたせいでごめんなさい……私、こんな事になるなんて……本当にごめんなさい……」




 根性で涙を絞り出し、渾身こんしんの演技で許しを乞う。


 これが運命の分かれ道だと思ったら、良い感じに震えが来た。




 どうかこれで何とかなりますように!




「もう、許してやってくれ……。やっぱりルーザリアは騙されただけなんだ。分かっただろう?」


「あぁ、クラウン様……」




 クラウン殿下はもう一度私をしっかり抱きしめた。


 彼の腕の中でやっと少し安心して、詰めていた息を再開できた。




「殿下……信じてくれてありがとうございます。私嬉しい……」


「あ、おい、ルーザリア! ──誰か、医者を呼べ!」




 あぁ、これで私は助かるわ。


 良かった……。


 私は息も忘れるほど極度の緊張が解け、素晴らしいタイミングで意識を飛ばす事に成功した。 

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