第30話 証言が欲しい〈ルーザリアside〉

 首をかしげていたら、おっさん貴族と偉そうな騎士がこそこそとささやき合っている。




「……殿下の私的な時間でも、誰か付いていた者はいるでしょうし、証言的にはこれで問題なくなりますな?」


「いやしかし、殿下の側近や近衛からは何の報告も上がっていませんが……」


「……まさか、婚約者様に隠れた密会ということは?」


「そんな……もしそれが事実なら、大変な事になります。それに──あぁ、ここですな」




 騎士が言いながら帳面をめくって一点をした。




「これは……」


「……殿下はその時間、謁見えっけんをしていた事になっていますね」




 クラウン様の顔色はますます悪くなっていく。




「殿下、ちょっとこちらへ」




 そうしておっさん貴族と偉そうな騎士が、クラウン様を囲んで話し合い始めた。


 おもにおっさん貴族がペラペラ喋っているけど、これがまた小難しい事を並べ立てて何を言いたいのかさっぱり分からない。


 私は話を聞くのを諦めた。




「それでは、殿下のという事で?」


「だが……」


「我々は殿下の決定に従いますが、王妃殿下にはご報告せねばなりません」


「くっ……思い違いだ」




 クラウン様が項垂うなだれて言う。




 ななな、何言ってんの!?




 私は心の中で絶叫した。


 なんで証言してくれないのよ? 


 本当に二人で居たじゃない!




「クラウン様?」




 心細そうに呼んだら、クラウン様が駆け寄って私を抱きしめた。


 そして耳元で話し出す。




「ルーザリア、すまない。あの時間にキミと会っていた事は公にできないんだ。でも、私がキミと過ごしたのは本当だ。絶対に何とか証明する方法を探すから、少しの間耐えてほしい」


「……はい。私、クラウン様を信じます」




 私もクラウン様を抱きしめて、彼の瞳を見詰める。


 私の瞳にわずかな時間、光の膜が張った。


 これで何とかしてもらえるかもと思ってたら……。



「ウホン、ウホン」




 誰かの咳払いで離された。


 クラウン様はおっさん貴族に「すまない」と言って私と距離を置く。


 気が利かないヤツだなと思ったけど、一応こいつにも媚び売っとく事にした。


 だって助けてくれる人は多いほうが良いもの。


 それなのに、おっさん貴族は私にまだ聞く事があると言う。




「本当のことを言いなさい。そうすれば多少の温情は与えてもらえるよ?」




 あぁ、このおっさんの隙を見て、少しで良いから見詰め合えれば何とかなると思ったのに、ちっとも上手くいかない。




「私、本当の事を言いました」


「では言い方を変えよう。言ってないことがあるのでは?」


「え……?」


「だから、言わなければならない事で、まだ秘密にしている事があるんじゃないかと聞いている」




 えぇっー。


 それはあるけど……。


 まさかここで『はい』とは言えないわよ。


 考えた末、仕方ないから曖昧あいまいに首を傾げてみる。




「はぁー」



 大きなため息をかれた。


 嫌味なおっさんだ。

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