第5話 観測者

 この仮世界で、何度もお互いの記憶を失い続けるか、現実世界で共に滅亡による死を受けいれるか。前者を選択することが道理だと言うのなら、今の僕は全力で反対することができる。


 何度も記憶をなくすことで引き継いだ出会いを無駄にはしないと決めたからだ。アルフィーが気付かせてくれたのも、少女と出会えたことも決して無駄にはしたくない。幾千もの消滅の先に紡がれて残る想いならば、人生にとって意味を成していたはずだ。その記憶が取り戻せないでいることは、なにより現実世界の僕が報われないじゃないか。


 僕の名前を呼んでくれた彼女。彼女に再会しようと誓った僕。どうしたって、出会いを忘れてはならない。僕から幸せの記憶を奪ったら、死ぬことよりも辛いだろう。


 アルフィーは最後の機会に言った。

「世界の終わりは誰かが見届けなくてはならない。なぜなら、世界の終わりを観測しなければ、それは世界からの消滅だから。人類の生きた証になれ、田崎くん。君が最後の観測者だ」


 僕は現実に生きていた過去をやり直すことにした。二度とこちらの仮世界に戻れないとしても、僕は自分で立ち向かうこと、死を受け入れることを選んだんだ。


 毎日繰り返される記憶のない朝から始まる日常。永遠のループと終わらない哀しみ。この無限世界にケリをつける。不条理な運命に抗う。

僕こそが、運命への最初の反逆者だ!

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