第8話


「あの、一つ思ったのですが」

「ん?」

「やはりシスターも……関係者なんですか?」

「ああ、そういえば言ってなかったな。つーか、最初に『研修』なんて言い訳をするから余計にややこしくなっちまったじゃねぇか」


 瑞樹がそう言うと、シスターは「だって、如月ちゃんが『怪異』の事を知っているなんて思わなかったから」とふて腐れる。


「えと、それは……つまり?」

「つまり、姉貴は……ほら、最初にいただろ。あの白装束の危ないヤツら」

「はっ、はい」

「そいつらと同じように『怪異』を祓える人間なんだよ」

「え!」

「しかも、あいつらは一個団体で活動しているけど、姉貴は一人で活動しているフリーランスの……言うなれば除霊師みたいなもんだな」

「エッ、エクソシストみたいな感じですか?」


 如月が尋ねると、シスターは「うーん、それはちょっと違うわね」と苦笑いを見せる。


「エクソシストは人間に取り憑いた悪魔を祓うから」

「そっ、そうなんですね」

「そ、だから明確な名称はないの。それに、本職はシスターだし」

「そう言いながらフラフラと海外に行っているのはどこの誰だ?」

「あら、でも私がずっとここにいたら探偵の仕事がない時は困るんじゃない?」


 瑞樹も口が達者な方だが、どうやら姉には敵わないようだ。


「じゃあ、今回の帰国もその関連……という事でしょうか」

「まぁ、そんなところね」


 しかし、これ以上は教えてもらえそうにないと如月は察した。


「それにしても、色々と便利になっていたのね。自分の作った作品を色んな人に見てもらえる様になっていたなんて」


 サラリと話題を変えつつ瑞樹から借りたアイパッドをシスターは楽しそうにスクロールをして見ている。


「こういったSNSを多用すれば、宣伝効果にもなる」

「宣伝効果?」

「えと、お店の情報とか載せて色々な人に見てもらう事で、そこから色々な人がリツイートをして拡散させる事が出来るんです」

「何、リツイートって?」

「簡単に言うと、情報の共有ですね」


 如月がシスターに説明していると……。


「随分詳しいんだな」

「明日香が使っているのを横目で見てちょっと教えてもらった程度の知識です。元々持っていないのにアカウントを取るワケにもいきませんし」

「まぁ、そうだよな。でもよ。暁ならスマホくらい簡単に買ってくれそうだけどな」

「それは……言われた事がありますが、申し訳ないので辞退させてもらいました」


 そう言うと、瑞樹は「言われた事はあるのかよ」とどことなくドン引きしていた。自分から聞いたくせに、ひどい男だ。


「それに、そんな事を母に知られたら大変な事になりますからね」

「その母親は……」

「え、持っていますけど」


 サラリと答えたその言葉に、瑞樹は思わず「やっぱりか」と言う言葉を零す。


「別に不便だと思った事もありませんし、余計なトラブルに巻き込まれる事も……」

「――ねぇとは言わせねぇぞ」

「……はい」

「でもまぁ、確かにSNSとかでの人間関係の悪化とかスパムメールとかウイルスとかの心配はねぇだろうな。ただ、連絡はすげぇ取りにくいけど」


 要するに、どちらの不便さを取るか……という事なのだろう。


「それに、今は持っていないからそう言えるのであって、持ってしまったら……今の状況には戻れねぇだろうな」

「それはよぉく分かっています」


 如月とて、一切使った事がないというワケではない。ただ、一度使ってみて「コレは危ない」と危機感を覚えたのは確かである。


「……で、姉貴はいつまで使ってんだよ」


 そう瑞樹が声をかけると、シスターは「ねぇ」と尋ねた。


「あ?」

「コレって、当然自分の作品は自分で作成して上げるとして……他の人のいいなと思った作品はこのハートか矢印のリツイートを使えばいいのよね?」

「ああ、そうだけど?」

「でも、コレって使いようによっては赤の他人の作品を自分の作品として上げる事も出来るわよね?」


 シスターの指摘に、瑞樹と如月は思わず固まった。


「いっ、いやいや! 出来る出来ないの話じゃなくて、そもそもそれはダメだから! それこそその他の人が書いた作品を模写したモノを上げるのだって、その書いた人本人の許可が必要だから!」

「ええ、確かにそうよね。でも、それを考える悪い人間がいても……おかしくないんじゃない?」


 そう言うシスターの言葉に、瑞樹と如月は思わず「それって」とお互いに顔を見合わせたのだった――。

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