第51話 有声

 私は今、ものすごく後悔している。

「なんで断ったんだろう……」

初めてクリスマスを独りぼっちで過ごしてみて気づいた。クリぼっちというものは、ものすごく淋しくて、空しい。

 思い返してみれば、そんなに悪い話ではなかったように思う。テニスサークルで話題のイケメンをクリスマスを二人で過ごす。世の中の女性とまではいかないだろうが、うちの大学にいる女子たちは間違いなく憧れる一日だろう。

「あ~ぁ。なんで断っちゃったんだろう……」

窓から差しこんでくる光が暗くなっていくにつれて、後悔の思いが強くなる。

 窓から入ってくる光が数本の街灯の明かりだけになったとき、机の上でスマホが小さく振動を始めた。

「誰だよ。こんな日に……」

送り主に八つ当たりをしながらスマホに明かりを灯す。

 私に勝手に八つ当たりされていたのは、神崎君だった。

『今日はお独りですか?』

そんな鼻につくメッセージを見て、表情が一気に強張る。さっきまで後悔していた自分にも、このメッセージにも腹が立つ。

 ――思い出した。態度が気に食わなかったんだ

さっきまでの『なんで』の答えが、たった今わかった。

「そうですけど?」

怒りをぶつけるように画面上の送信ボタンを強くタップして送信する。

『俺もです……』

衝撃の一文が送られてきた。

 完全な偏見で申し訳ないのだけれど、テニスサークルに入っている人は替えがいくらでもいるから、断られてもぜんぜん平気みたいな心持ちなんだと思っていた。完全な誤解で本当に申し訳ない。

「そうなんだ……」

感情がもろに乗せられた文章を返信すると、

『淋しくないですか?』

ちょうど感じていた感情を問われ、首がコクリと勝手に動いてしまう。

「確かに。一人は淋しいかな」

思いのまま返信をする。

『だったら今から、僕と遊びませんか?』

最後のメッセージを送ってから二、三分後に返事が来た。

 ――淋しいのは嫌だ……

心の底から強くそう思った。その思いの通りにパネルの上で指を動かす。

「私でよければ」

送信ボタンを押そうとしたその瞬間。

 ドンッ!

私の部屋の扉を強く叩く音が大きく反響した。

 私はあまりの恐怖で身体がピクリとも動かなくなってしまった。物音をたてないように、小さくゆっくりと呼吸をする。

『ハァ……ハァ……』

扉の向こうから男性の荒々しい息遣いが聞こえてくる。

『あ……あす…………。飛鳥!』

確かに聞こえた、私の名前を呼ぶ声。そのたった一つの声で、扉の奥に誰が立っているのかが正確に分かった。

 少し低くて、深くて、優しい声。

 前まで当たり前に聞いていた懐かしい声。

「……日向?」

扉の前に立って震えた声で訊く。

「そ、そう!」

私は手に握っていたスマートフォンを投げ捨てて、大慌てで玄関のカギを開けた。

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