第48話 カノジョのやさしさ

 腕の中にある明里のからだは小刻みに震えている。僕の口から、この言葉を聞くのが怖いんだってすぐ分かった。聞いてしまったら、終わってしまうから。だから、必死に涙を堪えているんだろう。だからこそ、しっかりとその声を聴くために嗚咽を堪えているんだろう。

 そんな明里を、一番の力で優しく抱きしめて、

「――僕は、齋藤飛鳥のことが好きなんだって」

はっきりした言葉で、明里にまっすぐ伝えた。

「ベッドの上で、飛鳥のことを思い出した。口からはダムが決壊したみたいにとめどなく悪口が溢れてくるのに、ちっとも嫌な気持ちにならなかった……。頭に流れてくる特別でもなんでもない日々がやけに懐かしくて、すごくあたたかくて。それでも僕は“明里の彼氏だ”って自分のこころを欺き続けた。でもそんな日々はぜんぜん楽しくなくて、明里にも辛い思いをさせたと思う……。でも、今日。このイルミネーションを見て、こころに掛けていた錠が外れた」

僕は腕の中から明里を解き放った。そして、明里と目線を合わせるように少し屈んで

「明里、ごめん……。そして、ありがとう」

精いっぱいの謝罪と、たくさんの感謝を伝えた。こんな短い言葉で全部が伝わったとは思わない。けど、明里の引きつった笑顔を見て、華奢な腕で背中を押されて。明里の月明かりのような静かなやさしさを身に染みて感じた。

「バイバイ」

背後から明里の小さな声が聞こえた。

 僕はその声に押し出されるように、シンシンと振る雪の中を全速力で駆け出した。

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