第47話 カノジョのぬくもり

 時間が流れて、空に帳が降りた。駅の構内から差しこんでくる光で足元の雪がキラキラと輝いている。

「わぁ! 綺麗!」

明里のはしゃいだ声が聞こえてきて足元から視線を上げると、赤・黄・緑色の美しい電飾が目に飛び込んで来た。

「きれいだね……」

このイルミネーションを見ると、どうしても飛鳥のあの美しい顔を思い出してしまって声が少し暗くなる。

「あの、日向君……」

僕の声色の違いに気づいたのか、明里がこちらをじっと見てくる。

「どうしたの?」

努めて明るく、楽しいで優しい笑顔を作って返す。

「いま、日向君の頭の中には誰がいますか?」

明里の顔は確かに笑顔である。でも、その笑顔はとても静かで、寂し気で、朧気で。声も喉が閉まっていて、とても苦しそうに聞こえる。

「そんなの決まってるじゃん。あか――」

必死な声で明里に言いかけたとき、明里が僕の左胸にそっと手を当てた。

「違う、でしょ?」

胸元に置かれた右手が微かに震えている。

 ゆっくりと上げられた顔。明里の真ん丸で可愛らしい目は真っ赤に充血していて、目じりには大粒の涙が溜まっていて、無理やりに上げられた口角は苦しそうにプルプルと震えていた。

「明里……」

「私は日向君の事が好きです……。大好きです。でも、日向君のこころの中には別の女の子が居て……。私が入るスペースは、もうないみたいです」

明里は微かに見える星空を見上げて、くるりと僕に背を向けた。

「明里……。違うよ、それは……!」

なんとか弁解しようとした時、明里は「ふぅ」と大きく息を吐いてこちらを振り返った。

「早く言ってください。私よりも……。私よりも飛鳥さんが好きだって」

カノジョの声は優しくて、すごく淋しそうで、力強くて、とても弱弱しかった。

「ごめん、明里」

僕は明里の苦しそうな笑顔を見ていられなくて、明里の震える身体を抱きしめて小さくそう言った。

「付き合い始めたとき。その時はもちろん、明里が大好きで毎日すごく楽しかった。こんなに可愛くて、優しい彼女がいることがすごくすごく幸せだった。でも日に日に、この気持ちが正しいのか。自分でもわからなくなった……」

腕の中で、明里の肩が大きく跳ねた。

「そして、二人で日光に行ったあの日。デートが終わって車に乗った時、デート終わりの独特な充足感みたいなのが感じれなかった……。デートがつまらなかったとか、そういうわけじゃなくて、むしろすごく楽しかった。楽しい気持ちで胸はいっぱいなのに、こころはなんでか満たされてなくて、ずっと胸がモヤモヤしてた。そんな時、隣で気持ちよさそうに寝息を立てている明里を見て、思い出しちゃったんだ……。いや、ちょっと違う……。気づいちゃったんだ…………」

この先の言葉が上手く出てきてくれない。喉がキュゥっと締まって。煩いまでに言葉が頭の中で跳ね返って。伝えたい言葉が。伝えなきゃいけない言葉が、ぜんぜん音にならない。

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