第46話 ヘンな思い出

 迎えたクリスマス・イブ。僕はなるべくお洒落で、それでいて防寒に優れた服を身に着けて家を出た。外の寒気をまるで感じないこの服に感謝を伝えながらゆっくりと駅までの道を歩いた。


 約束の時間よりも早く着きすぎてしまった。立って待ってるのも疲れてしまうからすぐ側にあった木製のベンチに腰を下ろして、明里が来るのを待った。

「あれ、このベンチ……」

どういうわけか見覚えがあるように感じるこのベンチ。隣にも、その隣にも穴地ベンチはあるのに、なぜかこのベンチだけ特別なものに思えてしまう。

「去年のクリスマス……」

そんなわけない。去年は地元で飛鳥とのクリスマスを過ごした。それなのに、去年のクリスマスの日、このベンチで飛鳥が待ってくれていたように思えてきてしまう。

「お待たせ」

違和感のある思い出に浸っていると、明里の可愛らしい声が右側から聞こえてきた。

「ぜんぜん待ってないよ。それじゃあ、行こう」

 ――遅い。こんな寒い中待たせて

「ホントに?」

僕の顔を覗き込むように首を傾げる明里。

「うん。ぜんぜん待ってない」

 ――ウソ。ぜんぜん気にしてないよ

「じゃあ、行こうか」

頭の中で流れる、あの日の飛鳥の言葉を振り切るようにそう言って、僕はキンキンに冷え切った明里の手をしっかり握って歩き出した。

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