第30話 声

「つまんない……」

学校から出された課題も全て終わらせてしまって、手持ち無沙汰な私はまだ慣れない畳の上に寝転がって、ボーっと天井を見つめた。壁が薄いせいで近くを走る車のエンジン音も、少し大きな笑い声も、もろに聞こえてくる。

「お腹空いた……」

思い返してみれば、昨日から何も口にしていない。

「日向ぁって、いないんだった……」

何かあると、すぐに彼の名前を呼んでしまう。私はこれまで、どれだけ日向に頼ってきたか、どれだけ日向が頑張ってくれていたのかが、すごくよく分かった。

 私はとりあえず空腹をしのぐために近くのコンビニでカップラーメンを買ってきて、独り畳の上であったかい麺を啜った。

「美味しくない……」

独りで食べるご飯はちっとも美味しくなくて。高校まで大好きだったカップラーメンも、半分ほど食べて残りは流しに捨てた。

「ごちそうさま……」

シンクの前で小さく零すと

(お粗末さまでした)

彼の声が聞こえてきた気がした。

「日向……」

あれから何度も繰り返す彼の名前。けれど、彼の声は帰ってこない。

 この空しい気持ちは、全然消えてくれなくて私は何の意味もなく小説の明朝体を目で追った。


 それから三日が経って、前の部屋に置いてあった家具などが今の部屋に届いた。

「この部屋じゃベッドも本棚も大きすぎるよ……」

全部の家具を組み立て終わった後、私が行動できるスペースは畳一畳分くらいになってしまった。

「それに、この本も……」

段ボールの中には最後の日、日向の部屋の机の上に置いた本までもが同梱されていた。

 この本の表紙を見ると、高校時代の日向のことを思い出す。毎日、鬱陶しくも、子犬みたいに愛らしく話しかけてくれていた、優しい日向のことを――。

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