第24話 正直なこころ

「日向の馬鹿……」

マンションの最寄り駅で降りて少し歩いたとき、そんな言葉が漏れた。信じられないくらい息が苦しい。体が熱い。胸がキュッと締め付けられる感覚。

「あれ、なんで……」

頬に一筋の涙が伝う。溢れ出たものを留めておくことなんて出来ず、一滴、一滴と頬に大きな道を作っていく。

 ――ただ居心地のいい男子だった……。

 ――ただそれだけ……。それだけだった……。

 ――それなのに……。

「どうして……」

本当は気づいてる。彼との交際が始まり、そして同棲を初めてから数か月。わたしの中で彼はただの“居心地のいい男子”ではなくて、いつまでも隣に居てほしい“大好きな彼”に変わっていたんだと。気づいたときにはもう、遅い。失ったものは決して戻ってこない……。私は涙を拭って、おぼつかない足取りのままマンションに戻った。

 合鍵で扉を開ける。部屋の明かりは点いていない。私は自室に入って本棚に詰まっている一通りの小説を段ボールにまとめて、自室の扉の前に立った。

 もう二度と見ることのない部屋に、感謝の気持ちも込めて小さくお辞儀をしてから自室を出た。

 それから、行く当てのない私は重たい段ボールを独りで抱えながら、誰もいない薄暗い道をトボトボとゆっくり歩いた。

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