第15話 ご機嫌ナナメ

突然のことに少し驚きながら、僕も飛鳥に続いた。中にはたくさんの棚があって、書店ならではの絶妙な匂いがした。飛鳥を探そうと視線を一周させると、飛鳥は書店の入ってすぐの所にある平積みになった新刊を大事そうに抱えてレジの方に足を進めていた。僕はとりあえず飛鳥の隣に並んだ。

「どうしたの、急に」

「別に……」

飛鳥は、全然こっちを見ないでそう小さく答えた。

『お次のお客様~』

店員さんに呼ばれ、飛鳥はそそくさと声のした方に歩いて行った。

『ブックカバーは』

「大丈夫です」

店員さんとのやり取りを淡々と済ませて、僕には目もくれないまま飛鳥は一人で書店から出て行ってしまった。

「なんで怒ってるの?」

「別に、怒ってない」

隣に並ぶと、飛鳥の歩くスピードが徐々に速くなる。その後、何度も追いついて話しかけてみたが、短い言葉で冷たく返されるばかりで、終始険悪なまま家に帰った。

 普段、新刊を買った日はソファーの上にだらんと寝転がって、それまで読んでいた本そっちのけでその本を読み始める。が、この日の飛鳥はリビングに入ることなく、自室の中に消えていった。

「なんだよ……」

僕は誰もいない、何の音もしない、ひとりぼっちのリビングで、小さく愚痴を零した。


 次の日、家庭教師のために明里さんの家に向かった。インターホンを鳴らすと、すぐに玄関の扉が開いた。その扉の奥から眩しい笑顔を浮かべて現れた明里さんに出迎えられて、明里さんの部屋に向かった。

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