第8話 ジュウジツした毎日

「日向?」

飛鳥の可愛らしい声で、現実に戻って来た。

「どうしたの? ボーっとして。もしかして、さっきの高校生の言葉気にしてるの?」

図星の僕の表情を見て、飛鳥は呆れたようにため息を零して

「たとえ、不釣り合いだって言われたとしても、日向は私の彼氏なの。他人の目なんて気にしない。もっと自信を持つ。わかった?」

飛鳥は、いつの間に取り出したのか分からない本を読みながら、そんな言葉を掛けてくれた。

「ありがとう、飛鳥」

「別に……」

まっすぐ向けられた感謝の言葉に、完全に照れている飛鳥が、言いようもなくかわいくて仕方がなかった。

 僕たちの大学生活は、お互いにサークルに所属することもなく、一緒に大学と家を行き来する毎日である。家ではと言うと、歯の浮くようなことは一切なくて、飛鳥は昔と全然変わらない様子で、ずっと本と向き合っている。

「日向、お腹空いた」

「なに食べたい?」

「何でもいい」

 この通り、料理も洗濯も、掃除までも僕が担当して、飛鳥はと言うと行動範囲がソファーの上とその周辺。後は、ベッドまでの道と、玄関までの廊下ぐらいだろう。

「はい、召し上がれ」

「おっ、美味しそう。いただきます」

飛鳥は小さく手を合わせてそう言って、小さな口いっぱいに僕が作った料理をほおばった。そして、フッと軽く口角を上げた。

「美味しい」

「それはよかったです」

こんな忙しい毎日でも全然いいや、そう思えてしまうくらい、このときの飛鳥はかわいくて可愛くて仕方がないのである。

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