―― 3 ――

 どうして私は、彼女を引き止めることができなかったんだろう。

 誰もいない渡り廊下に一人残って、私はずっとその絵を眺めていた。

 あの日のやりとりはいつでも思い出せる。

 

『お、雨宮あまみやさん。今日はもう上がるの?』

『用事があって部活はお休みさせていただきます。顧問の先生にも伝えていただけますか?』


 雨宮あまみや竜乃たつのさんは、そのまま行方不明になった。

 そんなのってない。可愛がっていた後輩の物凄く卑怯な裏切り行為だった。

 御堂賞の最優秀賞として、ここに貼られるのは私の絵だったはずだ。

 それなのに、それなのにあんなタイミングで消えるから――

 彼女が選ばれるしかなくなった。

 そうに決まってる。

 私の絵が、負けるわけがない。

 こんな短調な色使いの絵が、私より優れているはずなんて無かった。

 私は三年生、最後だったのに。

 もう次なんてなかったのに。

 一年のあなたの絵が選ばれるなんておかしいよ。

 ずるい。ずるい。ずるい。

 絵の技術で、負けるならまだ良かった。

 同情なんか集められたら、勝てるわけない。

 あなたがいなくなったせいで、

 この気持ちをぶつけることもできないなんて、

 ずるい。……ずるい。ずるい。ずるい。

 彼女の絵の下に蹲って、私は喚くように泣いた。

 悔しくて、これ以上言葉になんてできなかった。


「随分悲しいことがあったんだね。きっとそれは強い想いになって何かを変える力になるよ」

 聞いた事のない声が、耳元で囁いた。

「ね、私たちいい友達になれると思うの」

「友達?」

 ケラケラと笑いながら、彼女はそれに答えた。


「そ、ヒミツのお友達」

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怪底奇譚 ーKAITEI KITANー 碇屋ペンネ @penne_arrabbiata

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