第21話:女の子の裸を見たら……興奮しますよね?

『やっぱり男の人って……女の子の裸を見たら……こ、興奮しますよね?』


 こりゃまたいきなりな質問を、堅田が投げてきたな。

 なんて答えたらいいのか迷うけど、そんなこと当たり前すぎるから、まあ隠さなくていいか。


「そうだな。健康な男子なら、それが自然だよね」

『えっと……その……じゃあですね。直接裸を見なくても……女の子が……は、裸で……いるって想像するだけでも……興奮しますか?』


 どうしたんだろ?

 堅田はなんだか息が荒くなってきた。

 エッチな質問だから、恥ずかしいんだろうな。


「えっと……」


 うーん……質問の意味が、イマイチよくわからないな。どう答えたらいいんだろ?


「時と場合によるかな」

『時と……場合ですか? あふっ……』

「そうだな。女の子の裸を想像するって言われても、二次元以外見たことがないから、そんな簡単にリアルに想像できないし……って、何を言わせるんだよっ!」


 って、俺が勝手に口を滑らせただけだけど、あはは。


 執筆の参考だろうから一生懸命答えてはいるものの、言ってるこっちが恥ずかしくなる。


『なるほど……そう……なんですね。ふぅっ……』


 さっきからずっと息苦しそうだし、体調でも悪いのか?


「なあ堅田。喋りにくそうだな。大丈夫か?」

『はい。全裸で御堂くんと話してるとドキドキして、なかなか思うように話せないのです。聞き取りにくくてすみません』


 ──は? 堅田が何を言ってるかわからない。


「今なんて?」

『聞き取りにくくてすみませんって』

「そこじゃなーい! 最初の方だ」

『あ、えっと……全裸で御堂くんと話してると……ドキドキするって言いました』

「全裸ってどういう意味だよ?」

『御堂君は全裸って言葉の意味を知らないのですか?』

「いや、知ってる。意味を知ってるからこそ、意味がわからんのだ」

『御堂君って面白いことを言いますね。意味を知ってるから意味がわからないなんて。私の方こそ……御堂君が言ってる意味が……わからないです』


 らちが明かん。

 どう言えばいいんだ?


「よし、質問を変えよう。堅田は今、服を着てるんだよな?」

『やっぱり御堂君は……おかしなことを言いますね。クスっ。服を着てたら全裸とは言いませんけど?』

「つまり、堅田は今、何も着てないと?」

『はい。全裸ですから』

「うわわ、待てっ! 服を着ろ! 風邪ひくぞ! なんで裸なんだよ!?」

「大丈夫です。裸だけど布団に入ってますから寒くないです。風邪の心配はありませんから安心してください」

「そ、そういう問題じゃないだろ!」


 堅田って子は。

 いつだって予想外すぎる。


『あのですね御堂君。裸で布団に入ってると、肌が直接布団に擦れて……気持ちいいんですよ。それと全裸で男子と喋ると、まるで裸を見られてるようで興奮しちゃいます……はぁぁ』


 さっきから息が荒かったのは、興奮してたからなのかっ!?

 やっぱコイツ、変態か!?


 いかん。堅田が素っ裸で悶えてるシーンが頭に浮かんだ。

 大きな胸の双丘、くびれた腰、形のいいお尻。


 これは超絶ヤバい破壊力だ。


 今ならさっきの堅田の質問に明確に答えられる。

『女の子が裸でいるって想像するだけでも興奮しますか?』

 その答えは──全力でイェースぅっ!


「で、でも堅田。なな、なんで全裸で電話してくるんだよっ?」

『時々解放的になりたい時がありまして。そんな時は……全裸で寝るのです。今日は全裸なのを忘れてて……ついそのまま電話しちゃいました……えへ』


 えへじゃない!

 全裸で男に電話してくるヤツが、可愛く演出してどうすんだ?

 そんなことしたら……ギャップで益々興奮するじゃないか。


 このままじゃ俺がおかしくなる。

 壊れてしまうのを回避しないと。


「あのさ堅田。すまんが電話を切っていいか?」

『え……? ごめんなさい。全裸で電話してくる女なんて、やっぱり不快でしたか?』


 いきなり堅田は泣きそうな声になった。

 しまった。悲しい思いをさせてしまったか。


「そうじゃない。そうじゃないんだよ堅田! 不快どころか魅力的過ぎて、これ以上話し続けたら俺はおかしくなりそうなんだ!」

『ホントですか? 魅力的だなんて、私に気を遣って、嘘を言ってるんじゃないですか?』

「前にも言ったけど、俺はそんな嘘はつかない! ホントなんだよ、信じてくれ。堅田の魅力的な裸が頭にチラついて……」

『興奮してるのですか?』

「ああ、そうだよ! 興奮度マックスで、鼻血が出そうだ!」


 俺、興奮しすぎて既に頭がおかしくなってる。

 女の子相手に、なんてことを主張してるんだよっ。


『ありがとうございます御堂君。嬉しいです。それと『女の子が裸でいるって想像するだけでも興奮しますか?』って質問の答えはYESなのですね?』

「そうだよっ! 今の俺を見れば一目瞭然だろ!」

『はい。執筆の参考になります』


 おい、いったいどんなお話を書くつもりだ?


『じゃあ御堂君が壊れてしまう前に、電話を切りましょう』

「ああ、そうしよう。それがいい」


 大いに残念ではあるが、それが俺の身のためだ。


『えっと……それとですね。恥ずかしいから言うのはやめようと思ってましたけど、やっぱり言います』


 ──は?


 全裸だとカミングアウトすること以上に恥ずかしいことがあるのか?

 それを今から言うと?

 それ、めちゃヤバくないか?

 何を言うつもりだ!?


『今日電話した一番の理由はですね……御堂君の声が聞きたくなったからなのです。キャッ、言っちゃった! 恥ずかしいですぅ』

「いや、裸だとカミングアウトするのは恥ずかしくないんかーい!」


 思わず盛大にツッコんでしまったが。

 よくよく考えたら、俺の声を聞きたかったなんて、すっごく可愛くて嬉しいことを堅田は言ってくれたんだよな。


 そのことに気づいたのは電話を切った後だった。

 しかし同時に、ふとした疑問も湧いてきた。


 俺と堅田は『恋人ごっこ』をしてるだけの間柄だ。

 決して本当に好き合ってるわけじゃない。

 そんな相手に『声が聞きたくなる』なんてあるのだろうか?


 でもしばらく考えたら答えに行きついた。

 堅田が言った『声が聞きたい』というセリフ。

 それは単に、恋人ごっこの一環で”恋人同士らしいこと”を堅田が言っただけなのだ。


 きっとそうだ。

 そう考えると腑に落ちた。

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