第22話:品川さんってめっちゃお堅いらしい

***


 昨日あんなことがあったせいで、今日は朝から堅田かただの顔をまともに見れなかった。


 顔を見ると、全裸の彼女をつい想像してしまう。

 教室の中でそれはマズい。


 そして体育の授業終わりのことだった。

 更衣室で着替えてる時に、他の男子達が「誰が可愛いか」という話題で盛り上がっていた。


 男子ばかりの時に女子の話で盛り上がる。

 まあそれは仕方ないオスの本能と言える。


 その中で一番人気は、やはり品川さんだ。

 天真爛漫な明るさ。

 誰にでも区別なく見せる優しさ。

 そして何より抜群の容姿。


 彼氏がいるにも関わらず、ここまで男子達をとりこにするのはすごい。


「あんなに可愛い品川さんとエッチできるなんて、彼氏が羨ましすぎるぅぅぅ~」


 また下ネタに走ってるやつがいるな。

 スケベ男子筆頭の切山きりやまか。

 まあ男子だけの空間。それもある意味必然か。


「それがさ、実は品川さんってめっちゃお堅いらしいぜ。彼氏に指一本触れさせてないらしい」

「マジかよ? 彼氏ってサッカー部キャプテンのイケメン先輩だろ? あのイケメンにすら指一本触れさせないなんて……それって都市伝説じゃないの?」

「いや、ホントらしいぞ。俺バスケ部だからさ。部活の先輩に教えてもらったんだよ。先輩がその彼氏に『可愛い彼女とエッチできて羨ましい』っ言ったら、彼氏が『実は指一本触れさせてくれないんだ』って寂しそうに言ったんだって」

「それはマジ話だな……」


 一瞬沈黙が流れる。

 俺も驚いた。


「まあ品川さんって明るくて真面目そうだからなぁ。エッチなことと無縁な気がする」

「そうだよなぁ。でもその清楚さがまた魅力とも言える」

「それな」

「でもさぁ。品川さんって胸は大きくないよな」

「別に小さくはないだろ。普通じゃね? って言うか美乳だって噂だぞ」

「俺は巨乳が好きなんだよぉ~」


 もう着替え終わって、更衣室から出ようという状態なのに、またエロ話に戻った。


 こいつらエロ話に賭ける熱意が半端ない。特に切山。

 その熱意の半分でも勉強に注げよな。


 ……まあそれができたら誰も苦労はしない。

 それは俺もよくわかる。


「巨乳と言えば、やっぱ堅田だよな」

「おおぅっ、そうだ! 堅田はめっちゃ大きい!」


 この話題になると、やはり堅田の名前が出たか。

 頭の中に彼女の大きな二つの果実が浮かぶ。

 やべ、煩悩退散!


「でもあの地味さがなぁ…… エロさがなさすぎて興奮できねぇわ」


 うるせえ。堅田はお前のモノじゃないぞ。

 それに堅田はああ見えて、実はめっちゃエロいんだぞ。

 俺は……昨日めっちゃ興奮してしまったんだから。


 って言うか、彼らの話題が気になって、切山のすぐ後ろで聞き耳立てて歩く俺も俺だな、あはは。


「は? あの真面目で地味な子がおっぱいデカいって、割と良くね? ギャップ萌えっていうか……」

「おお、それ俺も同意だ切山!」


 俺も激しく同意!……してる場合じゃない。


 そんなことより、もう更衣室の出口だ。いつまでもこいつらの近くにいたら、俺もエロ会話に参加してると思われかねない。

 そう考えて早足で彼らの横をすり抜けて、先に更衣室から外に出た。


 ──ゲッ……


 男子更衣室からすぐ近く。女子更衣室の前に品川さんが立って、こちらを見ていた。

 誰か他の女子を待ってるような感じ。


 それに気づいて、思わず立ち止まってしまった。

 ヤツらが結構大きな声で会話してたから、聞こえてたかもしれない。


 昨日見たのと同じ冷ややかな目だ。

 背筋が凍りつく。


 品川さん。さっきのエロ話は俺じゃないからね。切山だからね。


 頼むっ! 俺の心の声、品川さんに届いてくれ!


 ──その時、ドンと背中に誰かがぶつかった。


「おい御堂、急に立ち止まるなよ。危ねぇな」


 切山が俺の背中に文句を言った。

 しかしすぐに品川さんの姿に気づいて、息を飲んだのがわかった。

 そして黙り込んで、俺を追い抜いて行く。


 切山が目の前を通る時に、品川さんは明るく笑って声をかけた。


「切山君、大丈夫? 気をつけないとダメだよ!」

「お、おう、ありがと。御堂が急に立ち止まるもんだからさぁ」

「キミの方こそ、ちゃんと前向いて歩きなよ。それとエッチな話は厳禁だからねっ!」


 うわ。やっぱ聞こえてた。

 だけどいつもの天真爛漫な可愛い笑顔だ。

 どうやらさっきの冷ややかな目は俺の勘違いだったんだな。


「エッチな話なんかしてねぇし」


 切山達は白ばっくれて、さっさと立ち去っていく。

 おい、俺を一人で置いとかないでくれ。

 品川さんの前を一人で通るのはなんだか気まずい。


 仕方ない。素知らぬふりをして、品川さんが立つ前を通り過ぎよう。


 品川さんから視線を外して彼女の前を通り抜けようとした時──


「御堂君も……男の子だね」


 俺にだけ聞かせるようなボソッと呟く声にギクリとした。

 思わず立ち止まり、品川さんの顔色をうかがう。


 冷ややかな目。

 そして口角が上がり、ニヤリと微笑む顔。

 背筋がゾクリと震えた。


 まさかあの天真爛漫な品川さんが、こんな顔をするなんて……

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