ノアワールドの真実

 俺は光の壁が消え、防壁に押し寄せる魔物を倒し尽くした。


 俺達5人はマジックハウスを出して、休憩しながらエリスに話を聞く。


「このノアワールドは箱庭の世界。そして加速された世界ですのよ」


「加速された世界?」


「そのままの意味ですわ。このノアワールドは世界と隔離され、時間を超加速した世界ですの。外の世界は神話からほぼ時間が経っていませんわ」


「それに箱庭ってなんだ?」


「ノアワールドは邪神の影響で滅びかけた人間を隔離し、救うための箱舟。海上都市ですの」


 まだ分からない。


 加速する意味が分からない。


「なんでこのノアワールドは時間を加速しているんだ?」


「それは、生き残ったわずかな人間を繫栄させ、強くする為ですのよ。その為の一夫多妻制ですわ。男性の多くが冒険者として戦い死にます。弱き者は死に強い者が生き残ります。そして生き残った血を引いた多くの子が生まれる。そうやって人間を強くする方向に導いてきましたの。それが私たち管理者」


「王家の者が管理者って事か?」


「王家の者が多いですが、王家だからというわけではありませんわ。ノアワールドの全員は成長因子を投与され、耐えられないものは死に、因子に耐えられない者は完全に淘汰されましたわ。更に魔物を生み出す瘴気の濃度もこのノアワールドは高いのですわ。【成長因子】【瘴気濃度の濃さ】【一夫多妻制による強い血】【時間加速】あらゆる手を使って人類を強くするよう仕組まれた世界。それがノアワールドですわ。ですが今、ノアワールドの力を光の壁に使いつくしましたの。加速が止まりますわ。明日の夜にはノアワールドを覆う光の壁も消え、神話の化け物が押し寄せてくるのですわ」


 なんとなく分かった。


「とりあえず、休もう」


 俺達は急速に魔物の生命力を吸収した。


 だが皆の疲労が激しい。


「そうだよ!ご飯を食べて休もうよ!」

 アイラがいつもと変わらないように話す。


 場が和む。


 アイラのこう言うマイペースな所は本当に助かるのだ。





 ◇





 俺以外の全員が疲労し、皆ぐっすりと眠った。


 皆休むことで魔力がみなぎってきているようだ。


 急速に成長しようとしているのか、ぼーっとしている者が多い。


 いや、俺もか。


 魔物の総攻撃で大量の魔物を倒し、倒した魔物の生命力を吸収する事で、体が生まれ変わるように作り替わっていくような感覚を覚える。


 俺も今は休もう。


 



 ◇





 皆が起き、だらだらとテーブルに座ってぼーっとしているとエリスが語り出す。


「知っている事は全部話しますわ。先ほどと同じ内容もありますが、まずは神話の終わりからの流れを話しますわよ」


 俺達はエリスの話を子守唄のように聞く。


 「500年前、邪神を打倒した後、4柱の邪神の子に破れた人類は海上都市に逃げ、加速装置を、稼働しましたの。時を加速させ、人口を増やし、邪神の因子のワクチンを開発し、徐々に人類に力をつけてもらい、更に封建制の一夫多妻制と成長因子を全員に投与し、なじませ、生き残った強い男の血を生きながらえさせることにしましたの。未来の為今の人類に苦労を強いる選択ですわね。これが神話後のお話ですが、今から神話のお話をしますわね」


「邪神の正体は元科学者、魔法使いと言った方が分かりやすいですわね。その邪神は当時禁止されていた精神操作の魔法を使用し、人を作り出す秘宝の奪取を目論みましたの」


「昔の人は人を生み出す事すら出来たのか」


「ええ、その力はありましたが、厳しく使用を制限されていましたの」


「邪神の目的は何なんだ?」


「ハーレムですわ」


「は?」


「ハーレムですのよ。邪神は好みの女性を作り出し、はべらせたかったのですわ」


「それだけ?それだけの理由で俺達は滅びかけているのか?」


「今となってはばかばかしいですが、神々の時代というのは、わたくしの考えが及ばない所で動いていたのでしょう。最初は邪神を捕まえる予定でしたが、邪神があまりにも優秀で、飼われていた家畜やプラントの植物を魔物に変える事で、全人類の脅威となりましたわ」


「そういえば魔物は、鶏・豚・牛・プラントトレント・食べられる魔物が多い」


「ええ、魔物は家畜やプラントの名残でそうなっていますのよ。人類は対抗して、125体の男性型ドラゴンと125体の女性型ドラゴンを戦場に投入しましたの。」


「まるで人類がドラゴンを作ったようにも聞こえるぞ」


「作ることが出来たのですわ。作ったドラゴンを投入し、邪神をあと一歩で滅ぼす所まで追い詰めましたが、ドラゴンは邪神に解析され、状態異常の脆弱性を突かれ、巻き返されるのですわ」


「脆弱性、か」


「特に女性型は魅了に弱く、同士討ちで多くのドラゴンを失い、その後多様性を確保する為人を勇者と賢者化し、数千の賢者と勇者によって邪神を討ち取りますが、邪神は13柱の分身体、邪神の子を作り、また巻き返されますわ」


「まるでイタチごっこじゃないか」


「その通りですわ。勇者と賢者は急速成長型で成長限界が低い弱点がありましたの。簡単に言えば冒険者のAランクで成長が止まりますの。勇者と賢者が戦っている隙に育てた【剣聖】【聖女】【魔王】を投入し、邪神の子を残り4柱にまで減らしますが、邪神の子にすべてのタイプを解析され対策を取られて最終的には数で押し負けますわ。そして今に至りますの」


「なんとなく、イメージは掴めた」


「それでかまいませんわ。わたくしも伝え聞いただけですもの。実際見たわけではありませんわ」


「ねえ、外がちかちかしてるよ」


「始まりましたわね。加速装置が止まり始め、光の壁の疑似天候システムも止まりますわ」


 俺達は外に出た。


 空が点滅し、その点滅の間隔が長くなる。


 太陽と月が高速で動き、点滅の正体は昼と夜の繰り返しであると気づく。


「点滅が収まった」


 光の壁が消え、空気の質が変わる。


 強風が吹いて、海の香りがした。






 暗い空が光り、光の柱がノアワールドに落ちた。


 地面が大きく揺れ、轟音がとどろく。


「何々!怖いよ!」


「神話の幕開けでしょうか?恐ろしいです」


 地面が揺れ、光の柱の元を辿ると、女性の姿があった。


「女が手からビームを出している!頭に角が生えているぞ!」


「そ、それは本当ですの!だとしたらドラゴン!人で女性の姿!まさか遠距離攻撃特化・後期型ドラグーン!」


 エリスが叫んだ。

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