殺人鬼

 王は頭を抱えた。


「また殺人事件か。被害者は治癒士か?」


 大臣が報告する。


「はい、ここの所毎日発生し、家の中に閉じこもっても家族ごとまとめて被害にあっているようです」


「住まいの情報を持っている国の人間か、それとも鑑定眼持ちの仕業か、分からんな。目的でもなんでもいい。何か分かった事はあるか?」


「現状判明している事は、夜間の犯行である事。そして我らの目をかいくぐっている事だけです」


 そこに兵士が慌てて駆け込む。


「大変です!治癒院に居る全員が何者かによって殺されました!」


 治癒院は日中以外人は居ないはずだ。


「それは日中の犯行か?」


「はい、昼前後の犯行と思われます」


「夜間のみの犯行でもないようですな」


「ほぼ何も分かっておらん。神の手の動きはどうだ?」


 殺人事件で王都が混乱する中、王の手の問題も抱えていた。


「指導者のガンダが、魔王を打倒しないせいで治癒士が殺されていると吹聴しております」


「魔王と殺人事件は全く関係ないだろうに。具体的な証拠はあるのか?」


「いえ、ですが民衆は心動かされております」


 民衆が恐怖に支配され、神の手の指導者に縋ろうとしている。


 危険な状態だ。


「引き続き調査を続けろ。緊急なら勇者を投入しても構わん」


「かしこまりました」


 王は考える。


 目的はなんだ?


 治癒士を殺されて困るのは我々人間だ。


 しかも信仰心の高い者が多い治癒士だけをなぜ狙う?


 セイのキャンプでは魔王の姿は確認されている。


 魔王の犯行とは考えにくい。


 そして今の監視をかいくぐり、どうやって殺人をしている?





 ◇





 民衆は恐怖し、神の手に縋るものが増えていた。


 民衆は道で話をする。


「おら、神の手に入信するだよ」


「だが、魔石の支払いノルマが厳しいようだぜ」


「だども、神の手に入信すれば殺人事件から守られるだよ」


 守られるかどうかは分からないが、そのようなうわさが流れているのだ。


「お前は治癒士じゃないから大丈夫だろ?」


「治癒士じゃない人も殺されてるだよ」


「俺聞いたぞ。最近は治癒士以外も殺されてるらしいぜ」


 噂はどんどん大きくなり、民衆の不安を煽った。


 更に、ありもしない噂も広まり、そのはけ口は王に向く。


 神の手は力をつけ、王は批判にさらされ捜査が進めにくくなる。


 更に殺人事件の解決が出来ず、王政は遅れに遅れた。


 こうしている間にも、治癒士の被害は増える。


 見えない殺人鬼によって民衆の恐怖は増す。


 恐怖にとらわれた民衆によって、解決は遠のき、ポーションの生産も遅れに遅れたため、魔物討伐も進まなくなっていた。


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