愚かな賢者は衰退する⑧

 ライガはキャンプから帰った後、計画を進めていた。


 あのキャンプはふざけているのだよ。


 私が動くしかないのだよ。


 賢者である私が兵士を辞めると言う事で、軍は動き、キャンプは改善されるのだよ。


 何故なら私は賢者!


 特別な存在なのだよ。






「辞めるのか。分かった。荷物はまとめてあるな?」


 賢者である私が辞めようとしている。


 引き留めないのはおかしいのだよ!


 無能どもが!あのゴミキャンプの教官では話にならん。


「もっと上の者を呼ぶのだよ!賢者である私が辞めようとしているのだよ!!」


「そうか、今までご苦労さん。出ていけ!」


「私は賢者なのだよ!!」





 ◇





 ライガは荷物と共につまみ出された。


 おかしい!


 この世界はおかしいのだよ!


 だが、待っていればあの教官は頭を下げに来る。


 私を追い出した報いを受けるのだよ。


 それまで宿屋でゆっくり優雅に過ごすのだよ。


 




 ◇





【数日後】


「金が無いなら宿屋から出ていってくれ!」

 

 宿屋からも追い出される。


 おかしい!謝りに来ない!


 私は賢者なのだよ!


 何度演習場に行ってもつまみ出される。


 おかしいのだよ!!


 ライガの腹が鳴る。


「ひもじい。冒険者になるしかないのだよ」


 冒険者ギルドに入ると数人の男がライガを睨む。


 対応する受付嬢の顔が引きつっていた。


「・・・・・というわけで説明は以上です。最初はFランクからのスタートとなります。ではお疲れさまでした」


 受付嬢の言葉がかなり早口だったが気のせいだろう。


 私がFランクなのは納得いかないが、これから上り詰めるのだよ。


 冒険者ギルドを出て、外を見渡すと、草原に柵が張り巡らされ、立ち入り禁止の立て札がいくつもあった。


 来るときは気づかなかったが、前はこんなものは無かった。


 柵に近づき目を凝らすと、セイが女に囲まれてバーベキューをしている。


 許せないのだよ。


 男がもう一人、確かガイと言ったか。


 そしてあれは、サーラ!


 このパーティーを私の下につけてもいい。


 私は賢者!


 皆泣いて喜ぶに違いないのだよ!


 ライガは立ち入り禁止の表示を無視して柵の中に入る。


 全員がこちらを注目している。


 ふっふっふ!当然だ。


 私は賢者なのだよ!


 だが何故か皆武器を構える。


「ここは立ち入り禁止だ」


 セイの言葉に言い返す。


「セイ、お前も立ち入り禁止の中に入っているのだよ。人の事は言えないのだよ」


「神の手か?」


「神の手?何を言っているのだ?私は皆をパーティー入れてやるのだよ」


「は?」


「私は冒険者になったのだよ。だからみんなをパーティーに入れてあげるのだよ」


「入らないぞ」


 ん?聞き違いか?いや、無能は何度も言わねば分からん。


 寛大に何度も言ってやろう。


「私のパーティーにみんなを入れてあげるのだよ」


 今度は大きな声で言った。これで伝わるだろう。


「絶対に入らない。逆になんで俺達がパーティーに入ると思ったんだ?」


「私は賢者なのだよ!皆が私に尽くすのが当然なのだよ!」


「俺に任せるっす。兵士に突き出してくるっすよ」


 ライガは電撃で攻撃した。


「うお、危ないっすね!」


「セイいいいいいいいい!勝負するのだよおおおおぉ!!」


「模擬戦と言う事ですわね?」


「そう言っているのだよおお!愚か者どもなのだよおおぉ!」


 なぜかセイは口角を釣り上げた。


「分かった。ライガと模擬戦をしようか」


 セイが武器を構える。


「待つのですわ。念の為に冒険者ギルドで正式に手続きを踏んで模擬戦をするのですわ」


「正式な手続きを踏むことでセイの正式な負けが決定するのだよ」


 エリスはライガが負けた後で特殊なことを言ってこれないように正式な手続きを踏んだ。


その事でみんなをライガから守る目的があったのだ。






 ◇





【冒険者ギルド・演習場」


「では、模擬戦、始めですわ」


 模擬戦と言っても武器を木材に限定するだけで、実際に殴ることも可能。


 電撃で動きを封じた後、何度も殴ってやるのだよ。


「セイ、いや、無能のセイ、調子に乗るのは今日までなのだよ。私は賢者、しかも今まで厳しい訓練を積んできたのだよ。選ばれた私が努力をする事でありえないほどの力を手に入れたのだよ。お前のように周りに女をはべらせ、バーベキューを楽しむような無能に私が負けるわけがないのだよ!」






 ◇






「ぎゃああああああああああああああああ!」


 イタイイタイ!痛いのだよおおおおお!


 セイのセイントビームを受け続け、ライガは転げまわる。


「負けを認めるよな?ライガの負けって事でいいよな?」


 周りの冒険者は転がる私を見てゲラゲラと笑う!


「はははは!流石賢者様だぜ!転げまわるのがお似合いだ!」


「あれワザと?ワザとだよね?じゃなきゃ、ぷぷぷぷ、おかしすぎる!!」



 許せないのだよ!


 そして魔道カメラがカシャカシャと鳴り続ける。


 ライガが転げまわる姿は皆が見たいものだった。


「ま、待つのだ!ぎゃあああああ!」


「負けを認めないならもっと威力を上げるぞ」


「あがががががが!」


 そこでビームが止む。


「今から5数える。それまでに負けを認めてくれ。それで楽になれる。5、4,3」


 攻撃が止んだ!


 今の内に電撃を撃ってセイを倒し形勢逆転する!


 苦しめ!セイ!


 セイに向かって電撃が撃たれる。


 だがセイの前にバリアが現れ、完全に防がれた。


「まだ!まだなのだよ!力を絞り出すのだよおおおおお!」


 徐々に電撃は小さくなり、消滅する。


 その瞬間ライガの目にセイントビームが飛ぶ。


「目が!目がああああ!」


「負けないのだよおお!」


「ああああああああ!」



 その後、ライガは無駄に叫び続け、自ら頭を打って気絶した。


 新聞には『邪悪を払うセイントビーム』の見出しで1面が飾られた。


 そして立ち入り禁止エリアに入ったことでライガは牢に入れられた。

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