神の手
エリスが魔力訓練を重ね、筋肉痛が軽くなると、皆魔物討伐に行きたがった。
特にエリス。
「魔物狩りをして強くなりたいですわ」
「魔物狩りか。エリスに向いているのは牛狩りだ。それでいいか?」
森はプラントトレントが良く出てくるが、奴らは遠距離攻撃をしてくる。
だが牛はひたすら突撃してくるだけで遠くから一方的に攻撃することが出来るのだ。
「牛狩りで大丈夫だよ」
アイラの言葉で牛狩りに決定した。
アイラは1人だけ近接特化で牛と殴り合う事になる。
そのアイラがOKを出したのは大きかったのだ。
「草原に移動するぞ」
◇
【草原】
「今回はマリナも歩いて移動出来ましたね」
「・・・・・うん」
俺は知っている。
マリナはばれないように途中から風魔法を使って楽に移動していた。
マリナが俺と目が合うと、露骨に視線を逸らした。
「体力は訓練でアップしましたが、体に違和感がありますわ」
「それは急速に筋肉をつけたから体の感覚が追い付いていないんだ。とにかく動いて感覚を掴んでいくしかない」
「言われてみれば納得ですわ」
「魔物を引っ張ってくるな」
俺は魔物に石を投げたり声を出して引き付けていく。
群れを何回か攻撃し、100体ほどの牛の魔物を引っ張ってくる。
皆が武器を構えるが、俺はセイントビームとメイスであっという間に全部倒す。
「どんどん行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!全部セイが倒してるよ!」
「皆魔物の生命力を吸収して早く強くなれるよな」
「そういう話ではありませんわ。これではわたくしたちが寄生しているようですわ」
「だが、これが1番効率がいいんだ」
「そうかもしれないけど、でも何か違うよ」
「大丈夫だ。後で戦ってもらうぞ」
こうして常に移動して俺だけが魔物を狩りつくし移動する生活を続けた。
◇
「飽きた。草原は飽きたぞ」
草原には何度も訪れ、何度も牛狩りをしてきた。
その上で牛を狩りまくったが飽きた。
「私はもっと飽きたよ!」
アイラは魔物狩りをせずひたすら歩いていたのだ。
俺より飽きるよな。
「移動するか。海岸に行きたいけど、海岸はカニの魔物が遠距離攻撃をしてくるから迷ってる」
カニは近づけばはさみで攻撃して来て離れれば水を飛ばしてくる。
更に素早く、盗賊ジョブっぽい戦い方をする相手だ。
「海岸に行こうよ!」
「私も海岸に行きたいです」
「わたくしも海岸を見てみたいですわ」
「お!エリスは海岸を見た事が無いか」
「見たことあるのはきっとセイを私だけだよ」
長く冒険者を続けた俺と元兵士のアイラ以外海は初めてか。
無理もない。
海はカニの巣窟。
ただマリナだけが微妙な顔をしていた。
「マリナ、海岸まで遠いからおんぶしようか?」
「・・・・・大丈夫、1人で歩ける」
こうして海岸に移動するが、マリナは途中から息を切らし、風魔法を使って体を浮かせて移動していた。
魔物を倒す事で全体的に能力が上がるはずなんだが、マリナの場合能力アップも魔力に偏っているのかもしれないな。
魔法を使って移動するのを隠す気も無いか。
皆マリナを見て苦笑いを浮かべる。
◇
移動の途中で何度も魔物に遭遇し、海岸へとたどり着く。
マリナがだらだらと汗をかく。
「魔力も切れたか?」
「わたくしも、疲れましたわ」
休息、と言いたいところだが、周りに魔物が多い。
このままじゃ休息中に魔物に襲われる。
周りの魔物は倒しておきたい。
「私が魔物を倒してくるよ!」
「私も行きます!」
サーラとアイラはカニを討伐しに出かけていった。
俺はマジックハウスでマリナとエリスを休ませる。
そこに外套を着た男が数人マジックハウスの近くに現れる。
「マリナを殺しに来たか!?」
俺は叫ぶ。
今誰が敵で誰が味方か分からない。
最大限の警戒をするのは当然。
「待つのですわ!!!」
エリスが大声を上げる。
「この者たちは王の使いですわ」
外套を着た男たちは手紙を差し出す。
「エリスはすぐに手紙を読む」
「何って書いてある?」
「マリナを殺そうとした者は【神の手】と言われる組織のようですわ。王都外の洞窟のアジトを強襲したようですが、すでに誰も居なかったようですわね。目的は世界の救済だそうですわ」
「神の手の人数は分かるか?」
「残念ながら、今言った情報以外ありませんの。尋問の途中で口の中の毒を飲んで自害したようですわ」
「狂信者っぽいな」
「ですわね」
「怒鳴って悪かった。他に掴んでいる事はあるか?」
「気にするな。我々も手紙以上の内容を知らない」
「そうか、ここで休んでいくか?」
「いや、すぐにエリス様の手紙をもらいたい」
「手紙と言われましても、セイはこれからどうする考えですの?」
「さっきの話を聞いて、しばらくキャンプを続ける方向で考えてるぞ」
「では、そのように手紙を書きますわ。皆さん、上がってしばらくお休みください」
「休ませてもらいます」
外套の男たちはエリスに頭を下げた。
「所で先ほどここに来る途中で戦っていたのは、アイラとサーラでしょうか?」
「そうですわよ?どうかしまして?」
「カニの群れに囲まれながら、危なげもなく戦っていたので」
「マリナはBランク、サーラはCランク位の力があるんじゃないか?」
「Bランク!勇者や騎士隊長と同じではないか!」
「Cランクも実力者だぞ!しかもサーラは治癒士だ」
今王都で最高ランクはBランク。
そしてBランクは現状俺を含めても4人しかいない。
「元々どちらも強いうえに、魔物の居る王都の外でキャンプをしているのですわ。強くなるのは当然ですのよ」
「エリス様も強くなられたのですか?」
「わたくしはまだまだですわ。わたくしが1番の弱者ですの」
「エリスも強くなってるぞ」
手紙を書き終わると、外套の男たちは帰っていった。
「帰った?」
マリナが1階に降りてくる。
まるで猫のように気配を消して2階に隠れていたのだ。
アイラは笑顔でカニを持って帰って来る。
「カニの甲羅焼きを作ろうよ!」
「カニパーティーだな」
焚火を用意し、カニの甲羅に野菜、後はエリスの希望で酒を入れる。
甲羅焼きと言ってもどちらかと言うとドロッとしたスープに近い。
更にカニの足も入れる。
余ったカニの足は焚火でじっくり焼いていく。
カニの足は焼くと破裂する可能性がある為、カニの足は離れた所にもう1つ焚火を用意して焼いていく。
マリナがニマニマと笑顔を浮かべる。
「もう少しで出来るよ」
「俺も楽しみだぞ」
「待ってください。最後に味噌を入れますよ」
みんなに甲羅焼きが配られる。
「「おいし~~~~」」
「出汁が濃厚で野菜に染みている」
「止まらなくなりますわ。お酒に合いますわね」
エリスはいつでも酒を飲むだろ。
絶対酒を飲む口実だな。
「サーラの味付けも絶妙だな」
「ありがとうございます」
マリナは黙々と食べ続ける。
気に入ったのだろう。
「えへへへへ、そろそろカニの足が焼けるよ」
アイラはナイフに魔力を通してカニの足をさばく。
もわっと白い湯気が上がり、美味しそうなカニの中身が姿を現す。
アイラは皆に配っていくが、自分の分がやたら多い。
アイラがカニの足にしゃぶりつく。
「おいひ~~~」
アイラは本当に旨そうに食べる。
「これは、オーブンで焼いてグラタンにしてもおいしそうですね」
「サーラ、次グラタンを頼めるか?」
「次はグラタンを作りますね」
マリナは黙々と食べる。
そしてエリスは酒を飲む。
今日はカニパーティーで終わりそうだ。
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