愚かな賢者は衰退する⑥

 セイ達が楽しくキャンプ生活をしている最中、ライガは参っていた。


 腹が減った。


 ライガは治癒士から金を徴収しようとするがことごとく監視に止められ、水を飲んで生活していた。


「このままでは死んでしまうのだよ」


 ボロボロになりながら王城へと向かう。


「食べ物が欲しいのだよ」


 門番に言う。


 門番は顔をしかめた後、淡々と対応する。


 ライガは嫌われているのだ。


「食べ物が欲しければ働くしかない。兵士か冒険者になって働けばいい」


 ライガは魔物に噛まれた恐怖を思い出す。


 だが、食べる為には働くしかない。


「私が騎士になるのだよ!食べ物を出すのだよ!!」


「はあああ!騎士は兵士として優秀な人間がなれるエリートだ!おとなしく兵士から始めろよ」


 そこに騎士隊長がやってくる。


「何を騒いでいる!」


 兵士が敬礼した。


「は!ライガが騎士になる。食べ物をよこせと意味が分からない事を言っているのです!」


「分かった。こちらで預かろう」






 ライガは演習場に連れて行かれた。


「騎士になるには実力と実績が必要だ。ライガには実力も実績も不足している」


「私は賢者なのだよ」


「それはライガが強いという意味か?」


「その通りなのだよ。私は選ばれた賢者のジョブを持っているのだ。いわば神に選ばれし優秀な人間なのだよ。実績も今まで治癒士ギルドに貢献してきたのだよ。私を騎士にしないのは国の損失なのだよ!おとなしく私を騎士にするのだよ。それが騎士隊長の為になる。黙って私を騎士にするのだよ!そして食べ物を持ってくるのだよ!それと私をもっと敬うのだよ!」



「まずライガに実績も実力も無い!実績は兵士として出すものだ!そうすれば騎士になれる!食べ物は昼になるまでお預けだ!新兵を敬う必要は無い!!!」


 騎士隊長はライガのおかげで多くの仲間を死なせた事で、ライガへの印象は最悪だった。


 ライガが治癒士ギルドの運営を傾かせた事で、治癒が間に合わず多くの兵の命が失われている。


 賢者として魔物と闘わず逃げ出し、何の実績も出していない処か足を引っ張り続けてきたのだ。


 更に、ライガの監視として貴重な兵を割く事にも憤りを感じていた。


 ライガ!これ以上足を引っ張るな!


 何も出来ないならおとなしくして黙っていろ!


 もうしゃしゃり出てくるな!


 騎士隊長はライガを睨み青筋を立てる。


「分かった。テストしよう。ライガと私で戦い、いい勝負が出来たら少しは認めてやろう」


「私は腹が減って力が出ないのだよ」


 またいいわけか!


 ふざけるなよ!


「空腹も加味して考える。かかってこい!」


「私は賢者なのだよ!剣を向けるのは不敬なのだよ!」


「叫ぶ元気があるようだなあああ!!木剣を持ってこいいいい!!」


 周りの騎士は素早く木剣をほおり投げる。


 騎士からもライガは嫌われている。


 騎士隊長は木剣を受け取った瞬間ライガのみぞおちに突きを放った。


「ぐべええええええ!」


 ライガが奇声を上げて倒れこむ。


「「どうした!手加減したぞ!賢者なら軽く躱せるだろ!」


 ライガに蹴りを食らわせる。


「お前の負けだな。これから訓練に切り替える!兵士としてしごいてやるぞ!」


 騎士隊長はライガの言葉を無視して苦しい訓練を続けさせた。






 昼になるとライガはげっそりしていた。


 食事が用意されるが思ったように食べられない。


 あまりに過酷な訓練で食欲が無くなったのだ。


「おかしいのだよ。賢者である私がこんな仕打ちを受けるなど。しかもこの食事は普通過ぎるのだよ」


 兵士の食事なので普通なのは当然だ。


 いつも豪華な食事を食べてきたライガは納得できなかった。






 午後の訓練が始まる。


「ライガは実力と実績不足により新米兵士として訓練を受けてもらう」


 騎士隊長の言葉にライガが噛みつく。


「私は空腹状態だったのだよ!」


「そうか、昼の食事を取った今は問題無い。ゲイル!前に出ろ!ライガと模擬戦の相手をしてやれ!」


 ゲイルが前に出る。


「まだ体調が戻っていないのだよ」


 騎士隊長はライガを無視した。


「ゲイルはCランクの強さを持っている!賢者であるライガがどこまで戦えるか見たい。それでは始め!」







 ライガは地面に倒れ、うめき声をあげる。


「どうした?賢者なら回復魔法を使って治せるだろう?」


 ライガは自身に回復魔法を使うが直りが遅い。


 詠唱も遅い。


 まともにヒールを使えないのだ。


「次はDランクの者と闘ってもらう」


「待つのだよ!まだ回復していないのだよ!」


「なるほど、ライガは並みの治癒士より回復魔法を使えないという事か。記録しておこう。今後の伸びに期待する」


 結局ライガは自身を回復させる頃には魔力が底をつき、その日はとにかく走らされた。





 ◇





【翌日】


「さっさと起きんか!」


 ライガはたたき起こされる。


 騎士隊長の管理を離れたライガは新米兵士として訓練に参加した。


 教官が訓練所でライガを指導する。


「ライガ、今日はDランクの戦士と闘ってもらう」


「待つのだよ!」


 ライガは殴られる。


「黙れ!訓練中呼びかけには、『はい』か『了解』以外認めん!」


「話をき」


 ライガの話を遮るようにライガは蹴られる。


「訓練中呼びかけには、『はい』か『了解』以外認めん!」


 ライガはまた蹴られる。


 屈辱なのだよ!


 こんなことは許されない!


「ライガ、『はい』か『了解』はどうした!?」


「私は」


 ライガは殴られる。


「『はい』か『了解』はどうした!?」


「・・・・・はい」


「声が小さい!!」


「はい!」


 その後ライガはDランクに負け、Eランクといい勝負をした。


 ライガの実力はEランクだと判明しする。


 最低がFランクなのでライガの実力の低さが露わになった。


 賢者の能力である【超成長】の力を持ちながらEランクの実力であるという事実は、皆を呆れさせた。


「Eランクのライガには魔物狩りキャンプを行ってもらう」


「・・・はい」


 おかしいのだよ!


 私がこんな奴の言う事を聞くのはおかしいのだよ!





 ◇




「ひいいいいいいいいい!」


 ライガはプラントトレントから逃げ出す。


 フェイズ1の雑魚魔物のみであるがライガは逃げる。


「ライガあああ!逃げるなあああ!」


 教官に取り押さえられ、魔物の居る方に投げ飛ばされる。


「うああああああ!」


 ライガは他の新米兵士を巻き込んで雷撃を放つ。


「ライガあ!兵を巻き込むな!」


「ひいいいい!」


「ライガあ!返事はどうしたあ!」


 ライガは自身のプライドをズタボロにされながら魔物と闘う。


 何度も脱走を試みるがそのたびに取り押さえられる。


 魔物の居る場所で脱走するのは危険なのである。


 こうしてライガは修正を受け、表面上の態度はマシになった。

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