マリナの告白

 マジックハウスに入るとマリナがすぐ答える。


 マリナ、カプセルに入ったまま王都中央を魔物から守る為だけの生贄でセイの隣の家のお姉さんだ。


「私のジョブは魔王」


「もし、嫌ならパーティーを抜けて構わない。俺はマリナを連れて旅に出ようと思っている」


「私も行く!」

 背の小さな戦士のアイラが即答する。


「私もついて行きます!」

 治癒士のサーラも即答。


「信心深いサーラも普通についてくるんだな」


 アイラはともかくサーラは【魔王】と聞いてこんなにあっさりしているのは意外だった。


「ジャンヌさんから色々聞いていました。カプセルに閉じ込められた経緯も聞いています」


 ジャンヌ、俺の恩師、幼い俺に戦い方を教えてくれた戦う治癒士にして治癒士ギルド長だ。


 俺は見えない所でもジャンヌに助けられていたんだな。


 だが、


「最悪ここに戻ってこれなくなる。それでもいいのか?」


「いいよ。早く行こうよ」


「大丈夫です。出発前にエリスとガイには話をしておきましょう」


 うーん。あまり多くの人にマリナの事を言うのはリスクが高い。


 俺はサーラとアイラにすら真実を言わないでおこうかと考えたほどだ。


 マリナが俺の目を見る。

「言いに行く」


 マリナの瞳からはしっかりとした意思を感じた。


 リスクを負う事を分かった上での決断。


「分かった。今日は休んで明日言いに行こう」


「まずは服を着替えましょう」


 マリナは俺の服をダボダボの状態で着ていた。


「私の服を使いましょう」


「私の服も使ってよ」


 全員がアイラの胸を見た。


「な!!」

 アイラは驚愕の表情を浮かべ、自身の胸とサーラ、マリナの胸を何度も見比べる。


「サーラとマリナが同じくらいの背の高さなんだ」


「私とマリナさんは同じくらいの背の高さです」


「身長、サーラと同じくらい」


「~~~~~~~~ッ!!なんで私の胸を見るのよ!」





 その後もアイラは諦めず自身の服を着せようとする。


 アイラの服をマリナが着てみることになった。


 俺だけ違う部屋で待つ。

 だが会話がダダ洩れだ。


「アイラのショートパンツはお尻が引っかかって履けない」


「私だってくびれはあるよ!」


「アイラのTシャツもその、はち切れそうですね」


「胸はこれから成長するもん!」


「Tシャツ、丈が短い」


「一回私の服を着てみましょう。ワンピースなので着られると思います」


 その後、マリナはサーラのワンピースを着ることになった。


 夕食中アイラに元気がなく、ちらちらとサーラとマリナの胸を見ていた。


 食事中のアイラが元気じゃないだと!


 大事件だな。


 言葉をかけようにも何を言ったらいいか分からない。


 アイラのスタイルは悪くないが本人が気にしている。


 何を言っても無駄な気がする。


 こうして俺達は変な空気のままその日を終えようとしていたが、就寝前も事件が起こる。





 俺がベッドに入るとマリナが俺の隣で眠りだした。


 サーラとアイラが揉め始める。


「私がセイの右で寝る!」


「分かりました。私はアイラとセイの間で寝ますね」


「ずるいよ!」


「喧嘩、良くない」

 そう言ってマリナが変化の魔法を自身にかけた。


 マリナは黒猫に姿を変え、俺の上に乗って眠る。


「凄いですね。高等技術ですよ」


「私変化の魔法は初めて見たよ」


 こうしてアイラとサーラが俺の隣に寝て、無事争いは収まる。




 ◇





 朝起きると柔らかい感触、マリナが変化を解いて裸で寝ているのだ。


 俺を抱き枕のようにホールドし、すやすやと寝息をたてる。


 そこにアイラが入ってくる。


「ねえ、もうご飯できて・・・・・」


 俺とアイラの目が合う。


「・・・・・」


「・・・・・」


「なんでマリナが裸で抱き合ってるの!?」


「わ、分からない。今起きた所なんだ。マリナに服を着せる」


「私がやるからセイは出ていって!!」


 こうして無事?俺達は食事を済ませ、ギルドへと向かった。





 ◇





 丁度エリスとガイが居た。

 エリスは、冒険者ギルドの受付嬢。


 ガイは冒険者ギルドのエース冒険者だ。

 背が大きく、威圧感があるが意外と気さくな性格だ。


 エリスは礼をし、ガイは手を上げて挨拶代わりのジェスチャーを送ってくる。


 俺も2人に手を上げて挨拶をした後すぐ切り出す。


「ガイ、エリス、大事な話がある。人が居ない所で話をしたい」


「それでしたら、セイのマジックハウスがいいですわ」


「急ぎっすか?今から新人を連れて魔物狩りに行ってくるんすよ」


「出来れば早くしたい」


 そこにマリナが割って入る。


「セイ、ダメ!悪い子!後でいい」

 マリナは昔と変わらずお姉さんポジションを確保したがる。

 もう俺の方が年上なんだけどな。


「それでは、ガイが帰った後食事をしつつ話すのはいかがです?」


 マリナがこくりと頷くが、さっきから俺の後ろをキープし前に出ない。


 マリナは人見知りなのだ。

 特に男が苦手だ。









 俺達は大量の物資とマリナの服などの生活用品を揃え、夕食を準備することになったが、サーラとマリナが揉める。


「私、料理得意」


「私がやります!」


「子供みたいな喧嘩は辞めないか?」


 俺の言葉にマリナが反応する。


「私、大人だから、サーラに任せる」


 サーラとマリナとアイラか、3人になったら一気にトラブルが増えたぞ。


 最初だけだよな?このままずっとこんな感じじゃないはずだ、うん。


 俺は自分に言い聞かせる。






「こんばんわ。お邪魔しますわ」


 エリスは当然のようにテーブルに酒を置く。


「ガイが来ないと飲めませんわ」


 え?何言ってんだ?大事な話があるって言ってるだろ。


 エリスが俺の顔を見る。


「大丈夫ですわ。大事な話が終わってから始めますわよ」


 思考を読まれたか!


「セイ、分かりやすい」


 マリナとアイラも笑う。


「俺とアイラは分かりやすいのか」


「私もなの!?」


 気づいてなかったのか!


 そこにガイが遅れてやってくる。


「遅れたっす」


「大丈夫だ。席に着こう」


「私は、魔王」


 マリナは結論から話を始める。


 15才の時にジョブが魔王に変わり、国に見つかりカプセルで過ごし、状態異常の魔法を使い、カプセルに回復される生活を繰り返していたことを語る。


「嫌な話っすね。どうしてマリナだけカプセルに閉じ込められてるんすか?」


「私、魔王だから。アーティファクトの部品のように使われても批判されない。私が閉じ込められていた方がみんな安心。私を閉じ込めて、状態異常の魔法を増幅させて中央を魔物から守るのは、合理的」


 魔王は魔人と並んで人々に恐れられている。


 過去に魔王は人々に厄災をもたらした。


 マリナ自身も自分が狂ってしまう事を恐れているのだ。


「気に入らないっす!1人にすべてを押し付けるのは気に入らないっす!」


 ガイがマリナを人として見てくれていることが嬉しい。


 そしてマリナを魔王として見ていない事に安堵した。


 エリスが口を開いた。


「カプセルはもう破壊されましたわ」


「これでマリナがカプセルに閉じ込められることは無いな」


 エリスがさらにつ続ける。


「王に会って欲しいのですわ」




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