交錯する思惑
賢者ライガは家を引き払う。
賢者の特権を無くした事で無料で住める賢者専用の家を手放す事になったのだ。
賢者であるこの私が治癒士ギルドを立て直し、また返り咲くのだよ。
無能の王達には私の特別さが分からないようだ。
いや、特別な私への嫉妬も含まれているのだろう。
選ばれた私も苦労が絶えないのだよ。
だがすぐにわかる。
私が賢者であるという事を!
すぐにのし上がる!
私は王になれる力すら持っているのだよ!
そして今度こそサーラを私の物にするのだよ!
ライガは口角を釣り上げた。
◇
勇者ボムズは自身の家で取り巻きの兵の報告を待つ。
優雅にコーヒーを啜りつつ、手に炎を出して眺める。
そこに兵が現れる。
「魔人討伐の遠征依頼は出したかい?」
「は!冒険者ギルドに依頼済みです!パーティーワールドヒーラーにも名指しで指名をお願いしてあります!」
「遠征の正確な日時はいつだい?」
「いえ、それはまだ未定です!」
ボムズは手の炎を兵にほおり投げる。
「あっつ!」
兵士が思わず声を上げる。
「正確な日時を確認し、必ずアイラを参加させろ!」
ボムズはまるで犬をしつけるように兵を動かす。
「すみません!すぐに確認に向かいます!」
兵士は急いで家を出た。
まったく!
すべて言わないと分からないのか!
本来冒険者との合同遠征は日程のすり合わせが必要で依頼を出してすぐ決まるものではない。
このようなボムズの無理難題はいつもの事だった。
ボムズはコーヒーを飲み干し、両手で炎を出す。
アイラは僕の物だ。
アイラは僕の部下になり朝から晩まで僕に尽くすべきなんだ。
ボムズは炎を眺め不気味に笑った。
◇
【王都の裏路地の民家】
人通りの少ないありふれた民家の丸テーブルを6人が囲んで座る。
皆外套のフードを被る。
女性が切り出す。
「セイは【超成長】と【自動成長】の力を持っていますわ」
男が答える。
「神話の竜族の力と英雄の力を併せ持つか」
「鑑定スキルで確認しましたわ。しかも竜族と英雄の弱点を受け継がず、メリットだけを発現させていますわ」
「弱き治癒士が竜族を超えるか、いや、まだ分からんな。今のセイの戦闘力はどうなっている?」
「竜族を超えるかどうかは分かりませんが、魔人をあっという間に倒す力は持っているようですわ」
「うむ、計画の為にセイは必要だ。あの計画は我ら、いや、すべての者に救いを与える」
男は口角を釣り上げた。
二人の会話に別の男が割って入る。
「気になることもあります。セイの周りに黒ずくめの怪しげな集団の影を確認しました」
「すぐに調べろ!我ら【管理者】の邪魔をさせるな!」
「はい、すぐに監視を強化します」
男はゆったりと立ち上がり、家を出た。
◇
【王都外の洞窟】
数十本のろうそくが周りをやんわりと照らし、揺らめく。
全員黒い外套のフードを深くかぶり、数十人の集団が1人の男を見つめる。
その男はフードを被ってなお威厳を放ち、皆を束ねる。
その男はゆっくりと口を開いた。
「マリナが、魔王がカプセルから抜け出したか」
周りの取り巻きが声を上げる。
「魔王の奴め、カプセルから出て何をするつもりだ!?」
「おとなしくカプセルに入っていれば見逃してやったが、野に放たれたか!」
「今こそ我ら【神の手】が動く時ですぞ!」
「そうだ!魔王の厄災は放置できない!」
皆が騒ぎ、ろうそくの炎がゆらゆらと揺れる。
「「静まれ」」
腹に響くような重い声が皆を黙らせる。
「皆の思いは分かる。だが動くなら、情報を集め、王都の外に魔王が出てからでも遅くない」
取り巻きの中から1人が前に出る。
その足取りには気配が無く、足音一つしなかった。
「私が皆を率いて情報を集めてまいります」
「うむ、今すぐ動け」
男が気配を消したまま洞窟から出ていく。
勇者と賢者は画策する。
更に【管理者】と【神の手】が加わりセイ達に波乱を引き起こす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます