衰退するライガと繁栄するワールドヒーラー

 周りの歓声を無視して、俺は走って王城に向かう。


 出来れば門番が俺を追い出してくれないかな?


 そうすれば堂々と帰れる。


 城門に着くと、すぐに声をかけられる。


「セイ殿ですか?」


「・・・・・そうだ」


「さ、お入りください」


 俺はすんなり中に入れた。


 ・・・・・走って行けば情報が届いてなくて追い出してくれるんじゃないか作戦は失敗か。


 俺は風呂に入り、正装に着替えさせられ、すぐに謁見の間の前にたどり着く。


 ジャンヌ・ガイ・サーラ・アイラ・勇者・ライガと勢揃いしている。


「遅いのだよ!無能のセイのおかげで待たされたのだよ!」


 アイラとサーラは勇者と賢者に隠れるように俺の影に隠れる。


 騎士隊長はボロボロのままだ。


 騎士隊長はぼろぼろのままでもいいのか。


 騎士隊長に案内され、俺達は謁見の間に入場する。


 王は老人とまではいかないが、白髪が目立つ。


 お決まりの儀式で跪くと、お決まりの王の言葉で顔を上げる。


「今回の魔物討伐、ご苦労であった。皆にしかるべき褒美を与える必要がある。まずはサーラ、二丁拳銃を与える。これからも皆を癒し、助けるのだ」


 サーラが二丁拳銃を受け取ると、異空間に素早く収納した。


 異空間収納機能付き、レアアイテムだな。


「次にアイラ、Dランク冒険者から、Cランク冒険者への昇格とする。更なる活躍を期待する」


 サーラは治癒士でCランクに昇格する戦闘力が足りない。

 だから宝を与えられたのか。

 治癒士は戦士や魔法使いと同じ努力をしても同じランクにはなれない。

 治癒士が戦闘力を上げるのは大変なのだ。


 今回アイラとサーラは活躍した。


 豚の魔物を大量に倒し、回復魔法で癒しの魔法を使う事で士気を上げたのだ。

 


「ジャンヌ、これからも皆を助け、癒すのだ。ジャンヌにはCランク冒険者の資格を与える」


 ジャンヌはCランクの戦闘能力を持っていた。


 今回戦ってはいないが、今までの功績も含め、今回の治癒士を率いて前線に出て来たのが良かったんだろうな。


「ガイにはCランクからBランク冒険者に昇格とする」


 当然だよな。


 みんなを守って、しかもBランクの強さを前から持っていた。


「さて、セイ、お前はAランク冒険者への昇格をしようと考えたが、聞けばみんなを助けているガイより上のランクにしたくないとの事だが、間違いないか?」


「はい、その通りです」


「うむ、これからセイはBランク冒険者とする」


 ここでライガが口を挟む。

「待つのだよ!セイは無能!Bランクは何かの間違いなのだよ!」


 今まで穏やかな顔をしていた王が激高した。


「黙れ!貴様は賢者の特権をはく奪する!戦場で逃げ出し、魔人からも逃げだしたお前に口を出す資格は無い!」


 ライガが立ち上がると護衛に押さえつけられる。


 ボムズも口を開く。


「ライガの行いは賢者とは程遠い。妥当な判断だよ」


 確かにライガの行動は街を襲われて逃げる民衆と同じだ。


 魔物と闘う使命を持った賢者の行動ではない。


 ライガはさらに口を開く。


「待つのだ!勇者も逃げたのだよ!」


 王が返す。

「勇者は戦いの最中、魔人の陽動を看破し、実際魔人と闘った!敗れはしたが、その事で守られた命がある!これ以上の侮辱は許さん!」


 王はさらに続ける。


「すでにお前は賢者の特権を失った!これからの行動に気を付けるのだ!」


 勇者は戦場から逃亡していたが、ライガの悪さがあまりにも目立ち、運よく魔人が現れ戦ったことで運よく罰を免れた。


「勇者と違いおまえはどうだ?2度も逃げ救える命を失った!」


「逃げていないのだよ!」


 王は立ち上がる。


「つまみ出せ!」


「待つのだよ!治癒士ギルド本部を買うのだよ!」


「何を言っている!?今何の関係がある!!!」


 出た!急に関係の無い事を言うライガの特殊な行動!


 それを言うのは今じゃないだろ。


「魔人が攻め込んだ治癒士ギルド本部を買い上げて、新しく治癒士ギルドを立ち上げるのだよ!」


 今までの話の流れと全く関係無い話だな。


「金はあるのか?」


 ライガはストレージから魔石を大量に出した。


「税が高いぞ。払いきれるのか?」


「私なら出来るのだよ」


「ジャンヌ、本部を買い取りたいと言っているが意見を聞きたい」


「今回の魔人襲撃で多くの治癒士が失われ、人が減りました。本部が無くとも治癒士ギルドは活動可能です。そして治癒士ギルド本部は元々王からお預かりしているにすぎません。王の判断に委ねます」


「うむ、大臣、ライガの魔石の計算と本部の売却価格を算出するのだ。今すぐにだ」


「かしこまりました」


「その間に勇者よ、勇気ある行動ご苦労だった。これからも民を守り、活躍することを期待する」


「任せてくれ。無能で愚かな賢者の分も僕が働こう」


 大臣と王はひそひそと話を進める。





 話が終わると王が突き放すように答える。

「3割程魔石が足りんな」


「賢者である私にかかればすぐに稼げるのだよ!」


「お前はもう賢者ではない!」


 大臣が口を開く。


「案があります。ライガの魔石すべてで治癒士ギルド本部を売却し、現状引き渡しとします。そして次の税の支払い期日までに、残り3割の価格を上乗せして支払ってもらうのです」


 現状引き渡しって、死者は埋葬したと思うが、魔物の襲撃でかなり傷んでるぞ。


 それにライガが税を払いきれるとは思わない。


 だが、ライガの金が復興費に使われると考えれば、国民全体は豊かなまま生活出来る。


 不幸になるのはライガだけだ。


 そしてその金は治癒士から巻き上げたものだ。


 ライガがすべての財産を失ってもかまわない。


 復興の為に魔石を還元して欲しい!


「うーむ、だが次の税の支払い期日は今月だ」


 王はまともな人間だな。


 ライガにもまともに話をしている。


「払えるのだよ!」


「分かった。現状引き渡し、更にここにある魔石すべてで売却する」






 こうして王の儀式は終わり、俺は急いでマジックハウスに帰還する。


 俺は城を出た瞬間に走り出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る