アイラはものすごい勢いで距離を詰める

俺とサーラ、エリスはギルドのテーブルで昼食を取る。


「冒険者ギルドも変わりましたよね」


「そうですわね、教会と治癒士の常駐所、更にポーション製造所も出来ましたわ」


「一番変わったのはガイだよな」


 ガイは別のテーブルで5人の治癒士のお姉さんを相手に楽しそうに話をしている。


 ガイは5人の治癒士のお姉さんと結婚した。


 行動が早すぎる!


 いや、ガイは前から行動が早かったな。


 そこに兵士の服装をした女性が入ってくる。


「見つけた!」


「アイラか?」


 大洞窟の陽動依頼で一緒の部隊に居た美人の戦士。


 異様に顔立ちが整っていた為、印象に残っている。


 アイラは泣きながら俺に抱き着いた。


 サーラの顔が膨れる。


「な、何なんですか!いきなり抱き着いて!」


「覚えてますか?!?私は大洞窟で一緒だったアイラです!」


「覚えてるぞ。それと無理して敬語を使わなくて大丈夫だ」


「そっか、そうだよね。セイと会えてうれしいよ」

 アイラは俺の前に座った。

 あまりにも自然な動作で俺を椅子にする。


 サーラが取り乱す。


「な、なんでセイさんに座ってるんですか!しかも何で呼び捨てにするんですか!」


「あ、アイラ、とりあえず横に座ろうか」


「うん、分かったよ」


 アイラはテーブルの椅子を持ってきて俺の真横に密着するように座る。

 隣にエリスが座っていたので席に割り込む形となりどうしても密着するようになってしまう。


 サーラが俺を引き寄せるように抱き着く。


 アイラが離さないとばかりに俺に抱き着く。


「セイにも春が来たっすね」


 ガイが隣のテーブルから声をかけてきた。


 ガイ、余裕だな。


 前は周りの冒険者に嫉妬してジョッキを握りつぶしてたよな?


 今ガイには王者の風格さえ漂う。


「それでアイラ、何かあったのか?困りごとがあれば相談に乗るぞ」


「そう言うのじゃないよ。でも今までセイは死んだと思ってたから、生きてるって分かってお礼とごめんなさいをしたかったんだよ」


 アイラは俺の前に顔を持ってくる。


 距離が近い。


「大洞窟では助けてもらってありがとう!後、セイを置いて逃げてごめんなさい!」


「どういたしまして、後、撤退は俺が言ったことだから気にしなくて大丈夫だ」


「話は終わりましたね。アイラさん、セイはそんなこと気にしないので大丈夫ですよ。お疲れ様です」


 サーラはアイラを立たせ、背中を押して帰らせようとする。


「ちょ、ちょっと待って!私をセイのパーティーに入れて!」


「ですが、セイはソロで活動してますわ。サーラもパーティーに入りたいと言って断られましたの」


「ちょうどいい」


 アイラが呟く。


「意味が分からなかったぞ。ちょうどいいってなんだ?」


「私は戦士だから治癒士のセイと一緒のパーティーになればちょうどいいよ!」


「セイ、私は銃で役に立ちます!」


「皆さん!落ち着くのですわ!まず、アイラさんの着ている服は兵士服ですわよね。兵士を辞めないとパーティーには加入できませんわ」


 青い軍服は兵士の所属を意味する。


 兵士である限り、冒険者になる事すら出来ないのだ。


「私兵士を辞めてくる!」


 アイラは走って出ていった。


「まるで直感だけで生きているようですわね」


「俺もそう思うぞ」


「私をパーティーに入れる話はまだ済んでませんよ」


「アイラが来たらまとめて話をしようか。今は食事を楽しもう」


「その通りですわ。食事は楽しくおいしくいただくのが良いですわ」


「ライバル登場です」


 こうして昼食を取った後、その日はのんびり過ごす。








【ギルドでの夕食】


 サーラの作った料理が並ぶ。


 いつものメンバーで夕食だ。


 コーンスープ・バケット・サラダ・ステーキ。


 いつものサーラの料理とは違うメニューが出てきた。


「料理のレパートリーを増やすためにライス系以外の料理も練習したんです」


「ずいぶんと、精のつきそうな料理ですわね」


 ステーキがやたら大きく、じゅ~っと食欲をそそる音と香ばしい肉の匂いが食欲を刺激する。


「精、はあ、はあ!そ、そうですね。セイさん、今日はセイさんの家に泊まってもいいですか?」


「はっはっは、精をつけてサーラを泊めてしまったらサーラが危なくなるだろ」


「望むところです!」


 サーラが大声を出す。


「いや、女性であるサーラが男の俺の所に泊まりに来たら危ないぞ」


「ばっちこいです!」


「ん?んん~?」


「セイはサーラと結婚しませんの?お似合いですわよ」


「その通りです!お似合いです!」


 自分で言うか!


 いつも控えめなのにこういう時だけぐいぐい来る。


「俺には目標があるんだよ」


 ばたんとギルドの扉が開かれる。


 アイラが最短距離でこちらに近づく。


「兵士を辞めてきたよ!パーティーに入れて!」

 

 こっちも元気で声が大きい。


「セイはサーラとアイラをパーティーに入れて結婚すればいいのですわ」


「急すぎないか?それにアイラも困るだろ?」

「私はセイと結婚したいよ」

 間髪入れず食い気味に答える。


「ちょっと、話がこんがらがってるぞ。まずアイラは座ってくれ。夕食は食べたか?」


「まだだよ」


「私がアイラの分も作ってきます。でもアイラさんは抱き着かないでくださいね!」


 アイラはステーキに目がいく。


 餌を待てされている犬のようだ。


「食べるか?」


「良いの!?」


 そう言ってアイラはすごい勢いで食事に手を付けていく。


 サーラが料理を持って戻ってくると、3人分の食事をアイラが平らげていた。


「もう食べられないよ」


 うむ、3人分だからね。


 そこにまた入り口の扉が開く。

「ここが冒険者ギルドかい?初めて入ったけど貧乏くさくて僕には合わないな」


 冒険者の一人が立ち上がろうとするが周りの冒険者が止める。


「よせ!あいつは勇者だぞ!」


「性格が悪いって有名だぞ!関わるな」


 勇者が俺達の所に、いや、アイラの元へと進む。

 勇者の顔立ちは整っている男だが、動きや表情を見る限り、関わりたくは無いな。


「アイラ、僕の所に戻ってくるんだ」


 勇者はアイラの手を強引に掴む。


 アイラの表情が引きつる。


「い、いや!もう構わないで!」


「僕の女にしてやるって言ってるんだ!」


「い、いや!離して!」


 勇者はアイラを殴る。


「僕の言う事を聞いていればいいんだ!」


 俺はアイラにヒールをかける。


 俺は立ち上がる。


 ふつう殴るか?


 アイラをまるで物のように扱っている。


「待て、嫌がっているぞ」


「君がセイかい?」


「そうだぞ」


 勇者は口角を釣り上げる。


「アイラを騙して奪い取ろうとしているようだね。僕と勝負だ!勝ったらアイラは貰う」


 え?どういう事?


 騙して奪い取るって初耳なんだけど?


「アイラの意思の問題だろ?自分の物みたいに言うなよ!」


「怖いのかい?ビビり君。逃げる臆病者にはそれしか選択肢がないのかい!?」


 周りの冒険者が盛り上がる。


「セイ!やっちまえ!」


「セイさんの本気を見たいです!」


 間にエリスが入る。


「アイラを貰う貰わないは別にして、勝負しましょう。白黒はっきりつけるべきですわ」


 冒険者達が盛り上がる

「いいぞー!決闘だ!」


「演習場に行くぞ!」


 勇者はさらに口角を釣り上げる。


「さあ、行こうか。君が無様に負ける様子をみんなに見せてやろう。そうそう、新聞記者も近くにいる。面白い記事が書けるだろう」



 俺と勇者が演習場に移動すると、なぜか皆ついてくる。


 こういうことがあるとついてくるのだ。

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