愚かな賢者は衰退する④

 ライガの居る小さな治癒院は前にも増して患者が来なくなった。


 理由はライガの特殊な性格と、異常な診療費の高さ、そしてヒールの腕前の低さである。


 ライガと話をしても会話がかみ合わず、診療で呼び出されてもしばらく待たされる意味不明な行動により、ライガの評判は落ちていた。


 更に5000魔石というポーションと同じ価格の診療費、しかも並みの治癒士と比べて回復率が低いのだ。


 人が来なくなるのは当然の結果である。


「ライガにヒールをかけてもらうよりポーションを常備した方がマシ」


 という噂が流れたのだ。


 ライガは暇を持て余した。


 客が来ない。


 賢者であるこの私が治癒を行ってやっているのだ。


 客が来ないのはおかしいのだよ。


 特別な賢者である私は常人には理解できないほどの超越的な存在になってしまったのかもしれない。


 ふ、特別な存在というのも孤独なものだ。


 ライガは自身の特殊性を別の意味で勘違いしていた。


 たまには冒険者ギルドに顔を出してみるとしよう。


 ポーションが無くなって困り果てた冒険者にヒールをかけてやるのだよ。






 こうして冒険者ギルドに向かうが、中に入ると冒険者ギルド活気づいてる。


 当然けが人はいない。


「セイのおかげで景気が良いぜ!」


「ああ、魔物狩りキャンプに治癒士を入れる事でこんなに儲けが上がるとはな」


「次の魔物狩りキャンプも参加するよな?」


「俺は行くぜ。今の内に儲けておきたい」


 セイ?あの無能のセイの名前が出ている?いや、別人だろう。


 セイが活躍できるわけがない。


 それに治癒士を入れた魔物狩りキャンプ?無能の治癒士が魔物狩りに参加するのはおかしい。


 まともな言葉を話せない冒険者達の戯言だろう。


 私に隠れて治癒士ギルドがポーションを流しているに違いない!!


 冒険者はすべての答えを言っていたが、ライガは言葉を受け入れることが出来なかった。


 ライガは人から相手にされなくなった為、冒険者ギルドで起きている治癒士の評価見直しという流れを把握できない。






 ライガは治癒士ギルドに赴いたが、治癒士ギルドはいつもより人が少なくがらんとしていた。


 ポーション製造所に行き、ライガは電撃魔法を手に発生させ、脅しをかける。


「冒険者ギルドにポーションを流すのを止めるのだよ!」


「流してません!」


「嘘は良くないのだよ。それに残りの治癒士はどこに隠れているのかね!?」


「ライガさんの行いのせいで多くの人間が治癒士ギルドを去りました」


「人のせいにするのは止めるのだよ!」


 ライガは電撃を放ち、治癒士は痺れて床に倒れる。


 治癒士は怒っていた。


 普段なら特殊で特権を持つライガに言い返したりはしない。


 だが今回は言葉を続ける。


「お前が冒険者ギルドにポーションを売るのを邪魔したせいで多くの人間が冒険者ギルドに流れたんだよ!王家にも目をつけられている!これからは自分の行動に気を付けるんだな!!」


「うるさいのだよ!」


 ライガはまた電撃魔法を使った。


「いぎぎ!お、王家からなぜポーションを冒険者ギルドに売らないか取り調べがあった。ライガに脅されて販売を止めた事はもう王家も知っている。次はお前が呼ばれる番だ!」


「余計なことを言うのは止めるのだよ!!」


「では次王家が来たらなんといえばいい?また来たら答えるしかないんだ」


「口の利き方に気を付けるのだよ!」


 ライガは質問に答えない。


 ライガは電撃を使い疲れて治癒院に戻る。





 だが今度は新しい治癒士ギルド長に呼び出しを受ける。


 ジャンヌに事細かく今までの悪事を聞かれるが一切質問に答えず、ジャンヌは受け答えの詳細を書記にまとめさせた。


 話の内容を王家に提出したのだ。


 ライガはジャンヌとの話が終わるとさらに不機嫌になった。


 まったく、私とそんなに年の変わらない小娘が治癒士ギルド長になるのが間違っている。


 私がトップの椅子に座るべきなのだ。


 その後ライガは王からも呼び出され、聞き取りを受けるが、王に対してもライガはまともな受け答えを出来ず、王を呆れさせた。


 ライガは更に不機嫌になる。


 この私に寄ってたかって説教など、必要無いのだよ。


 私は賢者、賢き者。


 私の言う事に皆従っていればいいのだよ!!!


 私の言う通りにすればすべてうまくいくのだ!!


 ライガは家に帰って酒を飲んでその日を終えた。





 王はライガに監視をつけ、ポーションの冒険者ギルドへの販売を再開させた。


 更に王は国民からライガの評判を集める。


 青い軍服を着た兵士が国民に状況を説明する。


 文字を読めない者の為紙芝居形式でライガの現状を説明し、その後で意見を求めた。


 当然多くの国民はライガへの罰と、賢者の特権廃止を求める。


「ライガに会ったことあるけど、話が出来ないし、ヒール1回5000魔石も取られた!賢者の特権は無くすべきだ!」


「私の弟が治癒士ギルドで働いているんだけど、ライガの電撃を何度も受けて苦しい思いをしているわ。ライガに罰を与えるべきよ!」


「なるほど」


 兵士は意見を紙にまとめていく。


 王の目的は意見を集める目的もあった。


 だがそれ以外の目的もある。


 それは国民からライガへの罰の要求を引き出す事だ。


 多くの国民からライガへの罰を求められてから王が動いた方が王としては都合がいい。


 例えばもし、賢者に罰を与えた後、魔物が王都に迫り国民に被害を出してしまったとする。


 そうなればライガは、


「賢者である私が罰を受けていたせいで私の力が発揮できず国民被害が出たのだよ!」


 と、国民を先導し、王を潰しにかかることが出来る。


 ライガは特殊ではあるが、家族を魔物に殺された国民がライガに先導され王に牙をむく事は十分に考えられるのだ。


 王としてはそのような状況は避けなければならない。


 ライガという特殊な人物に対してはこのくらい慎重になるべきなのだ。


 ライガは何かあるといつも人のせいにする。


 このような人間は責任転換をする能力が高いのだ。


 何故なら常に人のせいにして生きている。


 人に責任をなすりつける場数が通常の人間とは違うのだ。


 しかも嬉々として人のせいにする。


 通常の人間が持ち合わせている「俺だって人間だ、人に言えるほど完璧な人間じゃない」


 という許す心が無い。


 王・治癒士ギルド・冒険者ギルドを敵に回したライガ。



 こうしてライガは追い詰められていったがライガ本人はまだその事を知らない。



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