愚かな賢者は衰退する②

 賢者ライガは『反省』の名目でしばらく牢に入れられた。

 賢者の地位は高く、その処罰が限界だったのだ。


 賢者の悪い噂は大きく広まり、治癒士ギルドと冒険者ギルドは賢者の地位低下を求める陳情を王に送るほどとなっている。


 ライガは牢から出ると悪態をつく。


「賢者である私を牢に入れるなど国の損失なのだよ!」


 まったく、無能どもは分かっていない。


 私の価値を分かっていないのだよ。


 ライガは治癒院に行き、診療を再開した。


 小さな治癒院で明らかに民家に看板を付けただけの作りだった。


 中には患者が3人しかおらず、小さい治癒院にもかかわらずがらんとしている。


 ライガの特殊な行動が口コミで広がった為だ。


 ライガが患者を1人呼び、診察を始める。


「何かね?」


「足が痛いんだ」


「敬語を使うのだよ」


「・・足が痛いです」

患者の顔が暗くなる。


「・・・・・・・・・・ヒール!」

 ずいぶん遅い詠唱。


「まだ足が痛いです」

 そして回復力も足りない。


「私語は慎むのだよ」

 患者の表情が引きつる


「料金は5000魔石なのだよ」


 さすがに患者も口を挟む。

「待ってくれ!ヒール1回の治療費は1000魔石と決まっているはずだ!おかしいぞ!」


「私は賢者なのだよ」


「は!?何言ってんだ?ふざけんなよ!」

 患者はライガの意味不明な発言に怒鳴る。

 言っている意味が分からない。

 治療の能力が低くその上で5000魔石。

 そして賢者だから何なんだ?


「仕事の邪魔はやめるのだよ!」

 ライガは手に電撃を纏わせる。

 脅して黙らせるいつもの手だ。


「に、二度とこねーよ!」

 患者は5000魔石を乱暴に置きその場を立ち去る。






「次の患者、入るのだよ」


 患者を入れた後、患者を無視して書類を書き始める。


「あ、あのー」

 

 患者の声を無視してライガは書類を書く。


「なんで私は呼ばれたんですか?聞こえてますか?」


 結局ライガは10分間患者を無視し続けた。


「どこが悪いのかね?」


「肩が痛いです」


「・・・・・・・・・・・ヒール!5000魔石なのだよ」


 患者は目を細めながら5000魔石を置く。


「あの、なんで10分も放置されたのですか?後ヒール1回1000魔石ですよね?」


「帰るのだよ」


「いやあの、聞いてますか?」


 その後再三の呼びかけに一切反応せずライガは書類を書いていた。

 ライガは聞こえていてもワザと無視をする人間だ。


 患者は特殊な人を見るような目でライガを見た後そのまま帰る。


 ライガの悪評はどんどん広まった。


 ライガは、


 話を出来ない。

 ヒール代をぼったくる。

 人の神経を逆なでする。

 質問に答えない。


 とにかく特殊。


 とにかく性格に難がありすぎるという噂が広まる。

 

 今までは他の治癒士に仕事をさせていたのでまだ噂は広まりにくかった。

 だが、ライガ1人で治癒院を運営することで、ライガの異常性が色濃く浮かび上がる。


 ライガの治癒院を訪れる人はどんどん減っていった。


 




 ライガはまた治癒士ギルドに呼ばれ、サーラを奴隷化しようとした件や、診療費を既定の5倍取る件、セイのノルマを奪っていた件など、問い詰められるが、結局話にならなかった。


 話が終わるとライガは腹を立てる。


 治癒士ギルドはまず管理をしっかりするべきなのだよ!情報も集められないゴミのいう事を聞く気はないのだよ!


 全てブーメランだが、自身は気づかない。


 ライガは腹を立てて治癒士ギルドから立ち去る。






【治癒士ギルド】


 治癒士ギルド長は椅子に深く腰掛けた。


「まったく、ライガは何も反省しない。すべて人のせいにする。だから変わらないよ」

 ギルド長は人格者ではあったが、耐えかねて組織ぐるみでライガの悪評を広めることを決めた。

 これは苦肉の策であった。


 過去の賢者の偉業により今の愚かな賢者が守られている。


 ライガは一切の貢献をせず、みんなの足を引っ張り、恩恵のみを受けている。


 王族と並ぶ肩書を持つライガには、悪評を広める事と、繰り返し賢者の地位を落とすよう王に陳情を続ける事しか出来ないのだ。


 だがこの地道な努力によってライガは追い詰められていく。




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