愚かな賢者は衰退する①

ライガは治癒士ギルド本部に呼ばれた。


 これは昇進か?


 賢者である私が今まで1つの治癒院だけを管理していたのが間違いだ。


 やっと本部も私の力を正確に把握できるようになったか。


 本部のギルド長の部屋に入る。


 ギルド長は老人の男だ。


「さて、ライガ君。君がいる治癒院の離職率が高い件について原因を聞きたい。最近君を他の治癒院に移動させたが君が配属された瞬間にその治癒院の離職率が高くなっている。理由は分かるか?」


 こいつは何を言っている!


 賢者である私のせいにしようというのか!?


「人の事を言う前にまずギルドの管理を効率化すべきではないかね?」

 ライガは質問に答えない。

 何か言われれば批判か自慢話が返って来る。


 それがライガだ。


「質問に答える気はないのか?」

 ギルド長は内心うんざりする。

 またこれか。

 何度言っても話にならない。

 賢者なのに戦おうとせず治癒院に居座り続ける。

 だがライガは賢者と言う肩書に守られている。


「ギルド長がまず管理をうまくやるのだよ」


「質問には答えないという事だな。次に君のパワハラの話とサーラへのセクハラの話が上がっている」


「誰がいったのかね!?根も葉もないうわさを信じるその無能さを直すべきなのだよ。そしてその発言がパワハラではないかね?」


「そう言う所を直すべきではないか?聞く耳を持ちなさい!?」


「私は賢者、優れた私が無能の言う事を聞く必要は無いのだよ」


「質問に答える気はないと、次の質問は、主力のセイ君が辞めてからここ3年治癒院の離職率も成績も下がる一方だ。原因は分かるか?」


「セイは無能なのだよ」


「そうではなく原因を答えろ!!」

 ギルド長は机を叩いた。


「すぐ立て直すのだよ。黙って見ているのだよ」


「原因を答えなさい!」


「すぐに立て直すのだよ」


 ギルド長は深呼吸した。

 ライガに怒っても何も変わらない。

 ライガなのだから。

 感情を殺して接するしかない。


「質問に答えないと、所で賢者と言うレアジョブを持ちながら冒険者や兵士にならない事で周りから批判が来ている。戦わない理由を教えてくれないかな?」


 こうして1時間、問答が続くがライガは一切質問に答えず、実りの無い話が続いた。




 ◇





「周りが足を引っ張っているのだよ」


「君一人の方が効率が良いという事か?」


「その通りなのだよ」

 やっと質問に答えた。


 だがこの発言は使える。

 ライガは他の治癒士と隔離すべきだ。

 ライガは一人にし、これ以上被害を増やさぬように努めねば!


「話は分かった。一人向けの治癒院を用意しよう。君一人だけで運営してみるんだ」


「私の力を思い知るのだよ」

 ライガは口角を釣り上げた。


 だが実質役職を変えない降格処分だった。

 愚かなライガはその事に気づかない。


 ライガは意気揚々と部屋から出て帰っていった。


 ギルド長は椅子にもたれかかる。

 ギルド長は疲弊していた。


 隣で書記をしていたギルド員が呆れる。


「あれが悪名高いライガですか。噂以上です」


「もう疲れたよ」


「もう若くないんですから、無理しすぎですよ」

 ギルド長自体はまともな人間であった。

 ギルド長の人柄を知っているからこそ書記は軽口を言うのだ。


 ギルド長は賢者の権力縮小の陳情を今日も送った。



 ライガは何一つこりることが無かった。





 ◇




 ライガは小さな治癒院で診療を行うがうまくいかなかった。


 最初こそ人が集まったものの、ライガの特殊な行動により徐々に客足が遠のいた。


 おかしい!賢者であるこの私が診療してやっているのに人が来ない!


 サーラのせいだ!


 ライガはおかしかった。


 通常一人で治癒院の運営をし、何かあれば本来は自身のせいと考えるのが普通だ。

 だがライガは決して自身のせいにすることなく、周りの人間にすべての罪を押し付ける。


 サーラには体で払ってもらう。


 そうしないとおかしい。


 ライガは口角を釣り上げる。


 ライガの愚かな行動により、ライガは自身の首を絞める。






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