マリナ

 俺は魔人を倒した後も大洞窟に残った。


 昔の事を思い出す。

 俺が7才の頃の話だ。







 俺が寝ていると扉が開く。

「セイ、起きて」


「マリナ姉?」


 マリナ、俺の初恋の人。

 俺の両親は冒険者でよく家を空けていた。

 そんな時隣に住むマリナ姉が俺の面倒を見てくれた。


 その姿は銀髪のロングヘア、赤い瞳と褐色肌の美人。

 マリナは14才。


 俺と年が離れている為、俺を弟のようにかわいがってくれた。


 俺がテーブルに座ると、小さめのパンとスープ、ベーコンエッグを半分に切った食事をテーブルに並べる。


 俺はゆっくりと食事を食べる。


「頬、食べかすついてる」

 マリナ姉が頬を拭いてくれる。


「今日も、学校でお勉強」

 こうしてマリナ姉に学校まで送ってもらうのが日課だった。





 俺は学校に友達がおらず、いつも一人だった。


 学校から帰って来ると、町の外れに行き、秘密基地を作りに行く。


 今思えば何が楽しかったのかわからない。


 だが、その時の俺は夢中で森の中に秘密基地を作る遊びをしていた。


 ピッケルを持ち出し、洞窟を掘っていく。


 当時の俺は森に隠れるようにある洞窟に夢中になっていた。


 マリナ姉が毎日様子を見に来る。


「ここ、大きくなった」


「頑張って作ってるんだ」


 俺の秘密基地は大きくなる。


 子供とはいえ毎日作っているのだ。


「もし魔物が来たらここに逃げられるよ」


「その時は、私も入れてくれる?」


「マリナ姉だけは入っていいよ」


 マリナ姉が俺の頭を撫でる。


 しばらく俺の様子を見つめ、暗くなってくるとマリナ姉と一緒に家に帰る。






 そんなある時、両親が帰ってこなかった。

 1週間、2週間、待っても帰ってこない。

 きっと死んだんだ。

 この世界ではよくある事。


 マリナ姉は俺の家に住み着くようになった。

 マリナ姉も家族が居ない。

 俺とマリナ姉は身を寄せ合うように暮らした。


 しばらく経ち、マリナ姉が15才になった頃、俺が学校から帰るとマリナ姉が兵士に囲まれていた。


 マリナ姉が俺に抱き着く

「お姉ちゃん、行かなきゃ」


「どこに行くの?」


 兵士が説明する。

「マリナ殿にはこの街を守る為、カプセルに入って貰う」

 なんで?なんでマリナ姉なんだ?

 なんでマリナ姉がカプセルに?

 他の人じゃなく?


 胃が痛くなる。


 なんでマリナ姉なんだ?


 俺は具合が悪くなりその場に座り込んだ。

 俺は家のベッドに寝かされ、マリナ姉は連れていかれた。


 治癒士ギルドの本部にはカプセルと呼ばれるアーティファクトがある。

 このアーティファクトに入ると疲労や傷を癒すと言われている。

 マリナ姉はずっとカプセルに入り、定期的に状態異常の魔法を使い続ける。

 そしてその魔法を他のアーティファクトで増幅させて街の魔物のみに作用するようにする。


 これで街は安全になるが、作用するのは街の中央部のみですべてをカバーできるわけではない。

 しかもマリナ姉はずっとカプセルに入り続け、ずっと魔法を使う道具にされ続ける。


 カプセルで魔力を回復され続け、定期的に状態異常の魔法を使い続ける歯車の一部となるのだ。


 俺が寝込んでいると、ジャンヌ先生が訪ねてきた。

 先生と言っても12才で俺と4つしか年は違わない。

 美人だが、訓練はとても厳しい。

 

「セイ、居るか?」


「はい、今行きます」


 扉お開けるとすぐにジャンヌが切り出す。

「マリナさんからセイの面倒を見てもらうよう頼まれた」


「マリナには会えないの?」


「見に行くことは出来る。来るか?」


「行く!」






【治癒士ギルド本部】


 本部に入ると4人の監視に囲まれながら進む。

 ギルドの奥に進むと、広い部屋があり、円筒形のカプセルが中央に置かれていた。


 カプセルの中は緑色の液体が満たされており、中にマリナ姉の顔が浮かぶ。

 緑に濁っておりぼやけているが間違いなくマリナ姉だ。


「どうしたらマリナ姉をここから出せますか?」


 ジャンヌの顔が苦痛に歪む。


「魔人を全て倒せば解放されるはずだ」

 魔人、魔物から進化して生まれる人類最大の敵。


 治癒士は戦いが苦手、これが常識だ。

 俺にはどうしようも出来ないのか?


 ジャンヌが俺を抱きしめる。

「力が無くてすまない。こんな思いはさせたくなかった」


 ジャンヌ先生が俺の涙をぬぐう。 


 俺の目に涙が溢れていた。


 自分が泣いていることに気づく。


「私は強くなる。そしてセイにも私が教えられるすべてを教えよう!」







 俺は現実に引き戻される。


「俺が倒した。倒せたんだ!」

 治癒士の俺には無理だと思っていた。

 治癒院にいた頃は希望すらなかった。


 魔人、その正体は魔物のオスが進化して誕生すると言われている。

 邪神が男の為オスのみが魔人になると言われているが実際は分からない。

 今まで男の魔人しか確認されていない。

 

 魔人が持っていたメイスに魔力を込めて岩を殴る。

 岩が粉々に砕け四散した。


 俺は3年近く冒険者として戦い、魔人を108回倒した。


 俺は強くなった。


 魔人を倒せるほどに!


 行ける!行けるぞ!俺がすべての魔人を倒してマリナを開放する!


「大洞窟か、魔物を狩ってやる!」

 魔人をすべて倒す。

 そのためにここで力の使い方を練習しよう。






 俺は大洞窟に居る魔物が居なくなるまで魔物を狩り続けた。


 俺の力が増したことで、わずか7日で魔物は居なくなる。


 更に力を高め、俺は王都に帰還した。

 

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