アイラ
セイやガイの大洞窟陽動依頼にアイラも参加していた。
多くの兵士と冒険者が参加し、にぎやかな道中となった。
アイラはみんなと一緒に大洞窟に向かう。
ピンク色の髪と目でショートカットの髪形とクリっとした大きな目が活発で人懐っこい印象を受ける。
背が小さく、胸も小さいのがコンプレックスだ。
と言っても胸が全くないわけではない。
ワンピース型の青い制服を着ている為兵士であることがわかる。
背中にはロングソードを背負うが、背が低い為剣が大きく見えた。
腰のベルトにナイフを装備する。
後から聞いた話だが、魔人を倒すために大洞窟に乗り込んだ勇者は陽動である私たちを放置してすぐに撤退したようだ。
私たち陽動組はすぐに魔物に包囲され大洞窟に閉じ込められた。
その時セイさんを知る。
いや、大洞窟に向かう道中で顔は見ていたが、大洞窟に閉じ込められた後セイさんの存在感が増した。
黒目黒髪の治癒士で、治癒士なのにいつも前で戦っていた。
ポーションが切れ、皆を癒し続けていたらしい。
治癒士なのに大洞窟に居るのが珍しい。
通常ポーションを多くストレージに入れ魔物討伐をする為治癒士が居なくてもやって行ける。
わざわざ治癒士が前線に立つ理由が無いのだ。
実際にセイさんが戦う姿は見ていない。
15才で兵士になったばかりの私は弱かった。
私たちのように戦闘能力の低いグループは後ろに隠れる。
私たちが前に出ると足手まといなのだ。
セイさんは周りから高い評価を受けていた。
他の兵士に話を聞いた。
「セイか、魔法の発動が異様に早い。優秀だぞ」
冒険者の戦士にも話を聞く。
「治癒士なのに俺より強いんじゃねーか?」
魔法使いのお姉さんにも話を聞く。
「セイ君がいないと今頃私たちは全滅してたわ」
セイさんはすごい人らしい。
気づいたらセイさんの事を見て、いつもセイさんの事を考えていた。
セイさんに食事を持っていく。
「ありがとう。助かるぞ」
食事を渡しに行くだけでうれしくなる。
話をしてもらえるだけでうれしくなる。
少し気を使ってもらえるだけでうれしくなる。
魔物に殺される恐怖はあったけど、セイさんと話をしている間は楽しかった。
◇
しばらくすると、魔物が前線の包囲を突破して私たちの所に迫る。
人と同じくらいの大きさのカニの群れ。
私はロングソードを構えて必死で戦う。
「数が多いよ!」
みんな傷を受け、私も包囲された。
このまま死んじゃうのかな?
怖い怖い怖い!
カニが私にはさみを向ける。
その時、セイさんが走ってきた。
カニを1撃で倒し、私を庇うように前に立つ。
私に迫ってくるカニの攻撃から庇いセイさんは背中に傷を受ける。
セイさんはあっという間にカニを全滅させた。
私は泣いていた。
怖さから解放されて、
私のせいでセイさんが傷ついて、
私は訳が分からなくなってしまった。
「うえーん、ごめんなさーい、うえーん!」
「もう大丈夫だぞ」
セイさんが頭を撫でてくれる。
「でも、セイさんが傷を!私を庇ったせいで!うえーん!」
「大丈夫だ、ヒール!」
セイさんの傷があっという間に塞がる。
そして周りの人の傷もすぐ癒した。
その光景を見て思った。
この人と結婚出来たらどんなに幸せだろう?
私の目標が出来た。
セイさんとガイさんが中心になって数えきれない数の魔物を倒していたらしい。
そのおかげで包囲を突破できた。
大洞窟の入り口にたどり着く。
だが後ろからは魔物が迫る。
セイさんが叫ぶ。
「皆、先に行ってくれ!」
ガイさんも叫ぶ。
「俺も残るっすよ!」
「ガイは皆を守って街に戻ってくれ!」
「セイだけ残していけないっすよ!」
「大丈夫だ!このくらいなら一人で倒せる。しばらくここで遊んでから帰る!」
「確かにセイ一人で倒せるっすけど!」
「魔物が迫ってきた!早く撤退してくれ!」
「く!皆、撤退するっすよ!」
私は怖くて一緒に撤退した。
その後何度も冒険者ギルドにセイさんを訪ねに行った。
セイさんは戻ってこない。
きっともうこの世に居ないんだ。
強くなろう。
くじけそうになると思い出す。
セイさんならこんな時どうするだろう?
きっと諦めない!
私は今日も剣を振る。
私はセイさんを置いて逃げ出したことを何度も思い出す。
何度も何度も剣を振る。
セイさんを置いて逃げる弱い私から生まれ変わるんだ。
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