ヒールって思ったより役に立つ

ガイと俺、他の新人を含めて6人で町の外へと出かける。

 ガイ以外は全員新人だ。


 街の外周には防壁があり、門をくぐって外に出る。

門の兵士がガイに話しかけてきた。

「ガイ、調子はどうだ?」


「今調子が良いっすよ。たくさん魔物を倒すっす!」


「最近魔物が多い。気を付けろよ」


「分かったっす」

ガイの人柄の良さが伝わってくるな。


「しかし、全員男だな」


「そうなんすよ。戦士や盗賊ジョブは男が多いっすからどうしても新人の魔物狩りは男が多くなるんすよ」

 男性は身体強化系、女性は魔法使いや治癒士の魔法系のジョブが多いのだ。


 多くの男が前に出て魔物と闘う為男の死亡率は高い。


 年頃の男は少なく、生き残った強い男が多くの妻と結婚するのが一般的だ。


 ノアワールドで男の命は軽い。


 豚の魔物が居る!


 13体!


「気づかれてるっすね」


 豚がこちらに突撃を仕掛ける。


「挑発!」

 ガイのスキルで豚のターゲットがガイに移る。


「今の内に後ろから倒すっすよ!」


 俺は豚を攻撃して倒した。

 ほとんどガイと俺で全滅させる。


 だが新人4人はケガを負った。


「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」


 新人全員を素早く癒した。


「セイさん!ありがとうございます!」


「助かりました!」


 模擬戦闘を見ていたせいか新人がやたら礼儀正しいぞ。


「俺も新人だから気にしなくて大丈夫だぞ」


「いえ、セイさんとガイさんが居れば安全に魔物狩りが出来ます。お二人には感謝してるのでこのまま敬語を使います」


「俺も敬語使う!」

 お前は敬語使えてないだろ。

 いや、良いんだけどさ。


「俺も敬語を使います!」


 だが、確かにガイが挑発で引き付けて俺がヒールをかければ新人を死なせることは中々ないか。


「ヒールはまだまだ使えるっすか?」


「いっぱい使えるぞ」


「ガンガン行けるっすよ!この調子でたくさん狩るっす!」


 俺達は各自、自分が倒した魔物をストレージ収納魔法に入れる。

 ストレージは生活魔法と言われる魔法の一種で誰でも使えるが、収納容量は個人の魔力値が大きいほどたくさん収納できる。


 すぐに次の獲物を探して歩き出す。





 プラントトレントの群れか。

 プラントトレントは木の枝の間に丸くて白い30センチほどの実をたくさんつけている。

 実を割るとランダムで食材系の素材が入っているのだ。


 プラントトレントが土魔法を仕掛けてくる。

 岩のつぶてが俺達を襲う。


「挑発!」


 ガイが挑発を使った事を確認し、俺は一気に距離を詰めて1撃で倒していく。

 そして傷を負った者にはヒールをかける。


 あっという間にプラントトレントを全滅させた。


 魔物を倒す事でその生命力を吸収し、周りに居る者全員の力が少しずつ増していく。

 倒した者ではなく周りに居る全員の力が増す。

 例えば俺が魔物を全て倒しても他の5人も力が増していくのだ。


 新人がプラントトレントからぶちぶちと枝を引きちぎり実を外す。

 実が大きい為1つの実に複数の細い枝がついて固定されているのだ。

 わくわくした様子で声をかけてきた。

「プラントトレントの実を割ってみたいです」


 プラントトレントの実。

 中身には当たり外れがある。

 米や麦などの主食系は当たる確率が大きい為外れ。

 コーヒーや茶葉は中々出ないため当たりで高値で取引される。

 プラントトレントの実をすぐに割りたがるのは初心者あるあるなのだ。


「後にするっすよ。しかしセイは規格外っすね」


「そうですよ、もうヒールを12回使ってます。並みの治癒士ならそんなに使えないですよ」

 さっきから数えてたのか。

 俺は何回使ったか覚えてないぞ。

 

「そうか?まだいけるぞ!ガンガン行こうぜ!」

 俺はプラントトレントを本体ごとストレージに入れる。

 魔力が強い為ストレージの容量を気にせず収納出来る。

 プラントトレントの木材も売れる。

 プラントトレントの素材は木から実まですべて有効に使うことが出来る。


 こうしてガンガン魔物を狩っていく。


 だがセイの魔力が無くなる前に新人の体力が尽きてギルドに戻る。








「今回は新人さんがいますのに、大量ですわね」

 エリスが納品した魔物を見て驚く。


 周りの冒険者も思わず褒める。


「おいおい!新人の仕事とは思えねーな」


「ああ、すごい量の魔物だぜ」


 俺はガイを褒める。

「ガイの挑発スキルのおかげだな」


 ガイは俺を褒めた。

「セイのヒールのおかげっすよ」


「ふふふ、2人とも良いコンビですわよ」


「今日は皆でパーっとやるっすよ」


 こうして俺達6人は豪勢な食事と酒を楽しむことになった。


「乾杯っす!」

 6人がジョッキで乾杯した。


 テーブルには肉の串焼き・鶏の丸焼き・パン・ライス・炒め物・スープとテーブルいっぱいに料理が並ぶ。


 俺は酒ではなく食べ物に食らいつく。


「凄い食べっぷりっすね」


 俺は口に入った食べ物を飲み込む。


「治癒院時代は金が無くておなか一杯食べられなかったんだ」

 うまい!

 冒険者最高だな。

 簡単に魔物を狩れるし、報酬も良い。

 治癒院を辞めて良かったわ。


 そこに勢いよく扉が開けられ、大勢の負傷者が運ばれて来た。


「ポーションを出してくれ!金なら払う!」


 すぐにギルド員が動き出す。


「俺行ってきた方が良いよな?」


「ポーションがあるから問題無いっすよ。こういう時の為に大量のポーションが常備されてるんすよ」

 

 冒険者は死が近い。

 こういう時の為の備えはしてあるのか。


 町の中央にある治癒院までは遠い。


 大量のポーションをストックしているんだろう。

 

 そこに追加で多くの負傷者が運び込まれる。

 傷の深いものが多く、危険な状態だ。

 ガイの顔色が変わった。

「これは、ポーションが足りなくなるかもしれないっす」


エリスが叫ぶ。

「セイさん!ヒールをお願いします!このままでは助けられません!」


 普段叫ぶ事が無いエリスが叫んだ。 

 その場にいる全員が注目した。


「ヒール!ヒール!ヒール!」

 俺はヒールを使い続けた。


 あっという間に全員の治癒が終わる。


「・・・・・」

 あっという間の出来事に皆固まる。

 何が起きたか理解が追い付かないのだ。


 1テンポ遅れて冒険者が騒がしくなる。


「あのヒールの速度はなんだ!早すぎるだろ!」


「それもそうだがあの回復量も異常だ、傷が完全に塞がったぞ!」

 

 エリスが笑顔でお礼を言う。

「流石逸材ですわ。セイさんがいなければ何人もの冒険者が亡くなっていたのですわ」


「治癒院では無能って言われてたけどな」


「絶対に騙されてますわよ」


 助けた冒険者の仲間が泣き出す。


「すまねえ!おかげで仲間を死なせずに済んだ。本当に助かる」


 冒険者が揃って礼をする。


 なんだこの空気。

 俺は初めて多くの人に称賛され戸惑ってしまう。

 さっきまで酒飲んでたやつも立って肩を叩いてくる。


「やるじゃねーか!」


「き、気にしないでくれ」


 俺はテーブルに戻る。


「待ってくれ!治療の報酬がまだだぜ!」


「今回は報酬無しだ」


「だが助けてもらってる!」


 俺は頬を掻いた。


「皆にはこれから冒険者としてお世話になるからその分だと思ってくれ」


 冒険者全員が俺を讃える。


「兄ちゃん太っ腹じゃねーか。気に入ったぜ」


「困ったことがあれば俺に言えよ。次は俺が助けるぜ」


 エリスが近寄ってくる。

 

「セイさんは皆さんの心を掴みましたわよ」


「その通りだぜ。セイが困った時は俺が力になる」


「俺も力になるぜ」


「僕も力になる!」


 それから俺は重鎮のように扱われる。


 こうして俺は冒険者となり、魔物を毎日狩った。


 他の冒険者は稼いだ後はうまい酒と飯で数日盛り上がるが、俺は新人。


 毎日毎日魔物を狩り、倒した魔物の生命力を吸収して力を高めていった。


 俺のように毎日魔物狩りに行く者は珍しいらしい。


 だが俺は治癒士、自身にヒールをかけることで連戦が可能だし、何よりどんどん収入が増え、自身の力が高まっていくのが癖になる。


 装備も少しずつ買い替え、戦闘力を高めていく。


 まるで遊ぶような感覚で俺は魔物狩りを続けた。


 

 更にギルドに帰るとヒールを頼まれる。


 俺はけが人が居なくなるまでヒールを使い続けた。


 ポーションが1本5000魔石、俺のヒールが1回2000魔石なので、俺のヒールの方が安く、回復力も高いと評判になった。


 そして3年近く冒険者生活を続けた。


 その頃には俺とガイが冒険者ギルドのエースとなっていた。


 ガイと俺は定期的に新人冒険者を連れて魔物狩りを行っていた為、冒険者への貢献度も高いという評価となっていたようだ。










 ガイやエリスともすっかり打ち解けた頃、大規模な依頼が舞い込む。


 いや、ガイとエリスは最初っから人懐っこかったか。


「大洞窟の陽動依頼がありますの」


 大洞窟、アンデット系の魔物がが多く出没し、魔人が居ると言われているな。


「勇者と騎士の精鋭で魔人を倒す計画なのですわ」


 なるほど、その為に魔物を引き寄せておきたいのか。


「断ることは出来るっすか?」


「残念ながら強制参加ですわ。ガイとセイは活躍しすぎて冒険者ランクが上がってしまいましたの」


 依頼をこなせばランクが上がっていく。


 ランクが上がれば断れない依頼も出てくる。


「陽動に参加するのは俺とガイだけじゃないよな?」


「多くの冒険者と兵士も参加しますわ」


 たくさん物資を買って準備を整えておくか。


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