俺って強かった?

 冒険者ギルドは街の防壁の近くにある。

 この立地は街の外に近く、魔物と闘うには都合が良い。


 建物が異様に大きい。


 冒険者ギルドは、食堂・武具やポーションなどの販売店・宿屋と様々な機能が統合されており、冒険者ギルドというよりは総合ギルドと言った方がしっくりくる。


 冒険者はこのノアワールドで一番多い職業だ。

 戦士・魔法使いなどの戦闘ジョブ持ちは大体冒険者か兵士になる。


 魔物の素材から、料理、武器素材、防具素材、生活必需品の材料と、ほとんどのアイテムや料理が魔物の素材から作られる。

 そしてその魔物を狩り、その賞金で生活をするのが冒険者だ。


 受付に入ると受付嬢が笑顔で対応する。


「いらっしゃいませ。わたくしは受付のエリスですわ。どのようなご用件でしょう?」

 エリス、年は俺と同じくらいか。

 金髪ロングヘアの青い瞳の美人だ。


「冒険者になりたいんだ」


「はい、冒険者登録ですわね。この紙に記入をお願いしますわ」


「あの、治癒士だけど冒険者になれるかな?」


「治癒士も大歓迎ですわ」

 良かった。

 治癒士はダメって言われたら行く場所が無くなる。


 俺は必要用紙に記入を行う。






「はい、登録は以上ですわ。この鉄の認識票は無くさないようお願いしますわ」

 冒険者は死亡率の高い職業。

 この認識票は死んで白骨化してから発見しても誰の死体か分かるようにする為のものだ。

 


 冒険者ランクはS~Fまであるが、俺は当然Fランク。

 Fランクは初心者の位置づけだ。


「ちょうど良いですわ。もう少ししたらガイが新人を引き連れて魔物狩りに行きますの」


「同行したい」


「良いですわね。ガイを連れてきますわね」


 エリスが大男を連れてきた。

 背中には大楯を背負い、腰には剣を装備している。


 ガイが笑顔になる

「俺の名はガイっす。これからよろしく頼むっすよ」

 大男で最初は威圧感を覚えたが、意外と気さくな印象を受けた。


「よろしく、俺はセイだ。セイって呼んでくれ」


「わたくしたち皆同い年ですわね」


「ガイは年上かと思ったぞ」


「背が高いからっすかね。所で魔物との戦闘経験はあるっすか?」


「いや、無いんだ」


「模擬戦闘をしてみるのですわ」

 確かに、ガイからしてみたらどの程度戦えるかは把握しておきたいよな。


 魔物との戦闘に新人を連れて行くんだ。


 出来ることはやっておく。


 こうする事で冒険者の死亡率は下がるだろう。


 俺はガイとエリスに好感を持った。


 俺達はすぐにギルド横の演習場に向かった。


「模擬戦闘だってよ」


「俺も見に行く!」


 酒を飲んでいた冒険者が酒のジョッキを持ったままついてくる。


 訓練用の武器からメイスを選んだ。


 俺は木のメイスを両手で握った。


 ガイが盾と剣を構える。


外野の冒険者がヤジを飛ばす。


「ガイ!治癒士相手にケガさせるなよ!」


「ガイ!ちゃんと手加減しろよ!」


 治癒士は戦闘が苦手だ。


 戦士の適性を持つ者と同じ努力をしても治癒士は同じように強くなれない。


 それが常識だ。


「うるさいっすよ!俺は攻撃しないっす!」

 

 模擬戦と言っても俺が打ち込むだけか。

 気が楽だな。

 思いっきり打ち込める!


「思いっきり打ち込めばいいんだよな?」


 戦士の大楯持ち相手だ。

 

 遠慮なくいけるだろう。


「思いっきり打ち込んでくるっすよ」


「分かった。何回も打ち込む感じで良いのか?」


「そうっすね」


 俺は自身を身体強化し、メイスに魔力を込める。


 今日は治癒のノルマが無い!魔力が溢れてくるようだ!


 体の調子が良い。


 治癒院を辞めたおかげだな。


 走ってガイに近づきメイスを思いっきり横にスイングした。


 メイスが当たる瞬間にメイスに流した魔力をガイに向かって打ち出す!


 ガイの盾に当たり、ガイの体ごと後ろの壁に吹き飛び、轟音が響く。


 酒を飲んでいた冒険者がジョッキを落とし、驚愕の表情に変わる。


「何すか!?その威力は!」


 そして吹き飛ばされたガイに追撃をかけるように走り、メイスを振りかぶる。


「ストップですわああ!」


 俺とガイは模擬戦闘をを中断した。

 俺達の周りに冒険者が集まり聞き耳を立てる。

「強いんすね」


「身体強化を使ってましたわよね?」

 身体強化、体に魔力を流して身体能力を上げるスキルの事だ。


「それだけじゃないっす。武器にも魔力を流してたっすよ。あれは身体強化より難しい高等技術っす」

 身体強化も武器強化も本来は治癒士が使うスキルではない。

 本来は戦士が使うスキルだが、練習すれば治癒士でもある程度は使える。


「身体強化もメイスの振り方も治癒院の学校で教わったんだ」


「もしかして治癒院の特別クラスではありませんの?」

 特別クラス、普通の授業が終わった後優秀な生徒は特別クラスと呼ばれ残って戦い方も学ぶ。


冒険者がざわつく。


「おいおい!治癒士の特別クラスって言えば戦闘に向かない治癒士に戦士以上の戦闘訓練を行うあれか?」


 他の冒険者も話に加わる。


「あの動きを見たらそうだろ。地獄の特別クラスか」


 そういえば恩師のジャンヌの指導が厳しくていつの間に『地獄』って言われてたな。


「そうだけど、治癒院では無能って言われてたぞ」


「騙されてますわよ。普通の治癒士は身体強化も武器強化も出来ませんわ。それ以前に戦い方を教わりませんわ。一緒に戦える治癒士は貴重ですわよ」


「逸材っすね」


「逸材ですわね」


「うーん、少し大げさじゃないか?」


「そんなことないっす。実際吹っ飛ばされた俺は体が痛いんすよ」

 ガイが背中を抑える。


「セイさん、ガイは若手ナンバーワンの実力者ですわ。並みの攻撃ならガイの盾でいなして終わりですの。吹き飛ばせること自体が異常ですのよ」


「確かに受け流そうとしてたけど普通に打撃の軌道を修正すれば対応できるぞ。それよりも、体が痛いのか、悪い事をしたな」


 回復しておこう。

「ヒール」

 ガイに手をかざすとガイが光に包まれ傷が回復した。


「気持ちいいっす」


「発動が早すぎますわ!」


「発動が早いのは何回も使ったからだな。」


「魔法の高速発動は高等技術ですわ!」


「ん?杖か指輪は無いんすか?」

 通常魔法発動時は魔法の指輪か杖を使用する。

 今持っているメイスは訓練用で魔法力のアップ効果は無い。


「・・・色々あって今持っていないんだ」

 急に暗い話をするのは良くない。

 俺は事実だけを伝えた。


「指輪や杖無しで魔法を使うと威力が半減するはずですわ」


「でもちゃんと治ってるっすよ。前に魔物から受けた膝の傷も治ってるっす。というか他の治癒士に治してもらった時よりたくさん回復してる感じがするっす」


「魔力が無くなるまで毎日回復魔法を使って、無くなったら瞑想して回復魔法を使ってたから魔力は多いかもな」


「魔力量が極端に多いのですわ。魔力の質的に治癒士は戦いに向きませんもの。魔力が極端に多くなければ治癒士がガイを吹き飛ばせるはずがありませんわ」


「セイはここに来るまで修行してたんすか?」

 魔力が無くなるまで魔法を使い、魔力を枯渇させることで魔力は上がっていく。

 だが、それは大きな苦痛となる為修行と呼ばれる行為となるのだ。


「いや、普通に治癒院で働いてた」


「それに魔力が枯渇するまで使ったら気絶するっすよ」


「最初は倒れてたけど、慣れてくると気絶しなくなってくるぞ」


「おかしいですわ。治癒士ギルドはそこまで無理をさせないはずですわ」


「逸材っすね」


「逸材ですわね。ですが色々謎な方ですわね」

 

 ライガが居ない治癒院はもっと待遇がいいのかもしれない。


 俺はライガの事を思い出して気分が落ち込んでしまう。


「まあいいじゃないっすか。それより魔物退治に出かけるっすよ」

 俺の事を気遣って話を逸らしてくれたのか。

 ガイは優しいな。


「そうだな。行こうか」


 この模擬戦をきっかけにセイに敬意を払う冒険者が増えだした。


 セイは今後更なる力を手に入れる。

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