嗚呼! 素晴らしき民主主義

こざくら研究会

嗚呼! 素晴らしき民主主義

 テレビに壇が映され、それに設えられた階段を、若いスーツ姿の男が上る。壇下に居並ぶ人々をゆっくり見回した後、口を開いた。



「今日から首相になります、勝利しょうり 克也かつやでぇーすっ! よろしくね! 最大多数の最大幸福。隣の極悪非道の独裁国家にはない、国民の皆さんに支えられたボクが、みんなの期待に応えて、がんがん改革、ばんばん法律案提出していくからよろしくね!」



 数日後、勝利しょうり首相は国会にて、法案提出者として主旨説明を行っていた。

「『資産額に基づく国民適格者選別法案』とは、昨今ブラックブラックと騒がれてるけど、うるせーんだよ。だってそうでしょ? やだったら辞めりゃいいのに、この国は職業選択の自由があるんですよ。誰かが感情が有って止める事はあるかもだけれど、それに拘束力なんてないんだから、辞めりゃいいんだよ。二週間前に退職の意思を表明すればそれで辞められるんだよ。それでも辞めないのはそいつのせいでしょ? 仕事なんてそんな簡単に変えられない? まあ、暫く休んで、ゆっくり次を選べばいいんだって。その間の金はどうするかって? 何? ないの? そんな蓄えのないヤツなんて死んじまえってね。だってそうでしょ? そんな事すら出来ないヤツが、この競争社会で生きて行けるはずないじゃん? そんなヤツの面倒みなくちゃいけない訳? でもさ、死なれたら気分悪いよね。だから働かせて上げてんじゃん。それもわかってないバカ多過ぎね? まじ、やってらんないわけ。みんなわかるでしょ?」


 議場の全員がうんうんと頷いた。


「それにあれあれ、生活保護とか、ウケる。生きてて恥ずかしくないの? 病気? 家庭の事情? 知らないよww だって俺らに関係ねぇじゃん。まじさ、国ってのは中産階級以上が残ればなんとかなる訳さ。後、移民かなんかを奴隷として雇ってやればいけるっしょ? って事で、一定資産以上持ってねぇヤツって、まじ、生きてる資格ねぇから、人権取り上げますって事でいいと思うんすけど、どっすかねぇ~? そしたら、ぐだぐだ文句とか裁判とか起こされずにみんなすむっしょ。食わせてやってるんだから、マジありがたく思えっつぅの」


 全会一致でこの法案は可決された。



 そしてしばらくして、勝利しょうり首相は国会にて、法案提出者としてまたもや主旨説明を行っていた。

「え~、『所有児童の廃棄権に関する法律案』でぇ~す。ボク、彼女八人いるんだけどさ、最近その内の一人ができちゃった訳ね。女はマジ何考えてっかワッカンねーけどさ、何アレ? カワイイの? そりゃたまに遊んでやるとカワイイけどさ。どっちかってと、うざい? そもそもさ、ボク、別に子供ほしかった訳じゃねーわけ。ただ女とヤる事ヤって、気持ち良くなれれば言い訳さ。なのにさ、勝手に生まれて来てさ、お父さんとか。面倒見るのが当たり前って? はぁ? ふざけんなよ。そもそも言う事も聞かねぇし、ぴーぴー泣いてうるせぇし、クソガキじゃん。マジ大人になれって感じ。空気も何も読めず、マジなんなのあの生き物? って感じ。でもさ、殴ったり、殺したりしたらさ、アレじゃん。罪に問われるじゃん。あれおかしぃーと思いません? こっち望んでないのに勝手に生まれて来るんだよ。知らねぇよ。って事で、廃棄してもいいよって事で。まじメンドイから、まとめて燃やそうぜって法律。いいっしょ? 勿論子供育てたいヤツはご自由にどうぞって。でもみんなそうだって訳じゃないじゃん? いっぱいの人の事を考えて、多様性を認めようって法律だね。あ、勿論、子供廃棄する時、勝手に戻って来ないように、破砕の義務も設けるよ。まあ、生み出したからには片づける責任はあるからそこは仕方ないかなって」


 全会一致でこの法案は可決された。


★★★★★


 幾つかの本棚と机の置かれた広い部屋、勝利しょうり首相のこれらの一連の動向を報告した書類に目を通し、髭面の男は口角を微かに歪めた。

 その男の座る椅子の前、机を挟んで背広姿の痩身の男が言った。


「貴国は民衆を無視している。民衆の声を聞き、独善的な行いを改めるべきだと、そう通告して来ました」


「ふん。このような人非人の行いをする国がよく言う。バカがバカを選んで、バカをやってりゃ世話がない。どんなシステムを備えようと、最後は扱う人間によって決まると何故わからん。形式だけに拘って、否、口実に過ぎないのだが、民衆はそれすら本当だと信じ込む。やはり偉大なるわたしが、導いてやらねばならんのだ」


「ですが、その」


「なんだ」


「大総統閣下の命じられた食糧計画ですが、その、改善ならず、すでに十万人の餓死者が」


 髭面の男は痩身の男を睨み付ける。その鋭い視線を受けた痩身の男は、現場の指揮の怠慢であり、現地の監督官を処罰しますと言って、慌てて部屋から出て行った。

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