「40」ペダルを漕ぎ進め

 町の中で自転車を漕いでいると日が落ちてきた。


 目に入った公園の前で自転車を停め、俺はヨロヨロとベンチに近付いて腰を下ろした。

「ハァ……ハァ……」

 人影がなかったこともあり、俺はベンチを独占して寝転んだ。

 ここまでずっと自転車を漕いできた。

 都会の喧騒からはずいぶんと離れたところに来たらしく、寝転がって見上げた空には星が瞬いていた。

 かなり進んでは来れたはずだ。


 しかし──俺は疲れた体に鞭を打って、上半身を起こした。


「こんなところで休んでいられない……」

 まだ目的地には程遠い。

 自転車で向かうこと自体、無謀だったのだろう。

 そんなことは、最初から分かっていた。

 単純に、タイムリミットを気にするのならば、今からでも電車に乗り換えて行けば良いのだ。

 そうすれば遅くなることもないし、ハズィリーの目覚めに合わせられるかもしれない。


──心に迷いが生じていた。


 でも──もしそれで目覚めに間に合ったとして、本当にハズィリーを救う効力があるのだろうか。楽をして手に入れたそれに、何の意味があるのか。

──まぁ、それは自転車でも同じなのだが。苦労して手に入れたとして、ハズィリーを救える保障はないではないか。

 どちらを選ぼうとハズィリーを助けられなかったとしたら──。


 俺は疑念を払うように首を振るった。

「馬鹿野郎。『助けられなかったら』じゃない。『助ける』んだ! そのために、俺は行くんだよ!」

 気合いを入れ直し、立ち上がろうとした俺の目は再び夜空に向いていた。


「……あ」


 そして、視界に捉えたのは──流れ星。

 一つではなく、キラキラとあちこちで光が瞬いては消えていた。

「自転車で行く、自転車で行く、自転車で行く!」

 本来、流れ星に願い掛けをするところであろうが、俺は決意を口にした。


 もう迷わない。

──俺は行く!


「……行かないと……」

 よろけながら立ち上がった俺は、公園の入り口に停めた自転車へと向かった。

「絶対に、ハズィリーを助けるんだ!」

 自分の行動が彼女を救うことに繋がると信じ、俺は自転車に跨がった。


 そして、目的地を目指して突き進むのであった。

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